「美優さん」
「なに?」
「先に言うけど、俺んち今日誰もいない。親、いつも家にいないんだ。だからひとり暮らしみたい」
「へえ」
「美優さん。ごめんね」
「なにが?」
「肩、濡れちゃったね」
「碧人だって」
「夜には、雨脚が弱まるみたいだよ」
「ふうん」
「乾かしてから、帰ったら?」
「えっ?」
「命令」
笑いもせずにそう言うから、胸の中が騒いだ。
『恋人ごっこ』というくせに、お昼を一緒に食べたり、柊碧人の家に誘われたり、『ごっこ』のわりには、随分恋人じみてる。もっと形だけのものだと思っていたのに。
だからか柊碧人とわたしは、タケちゃんとわたしより濃密で近い関係なのかと錯覚してしまう。
だってタケちゃんとはお弁当も食べないし、一緒に帰らない。
なんだか、セックスした日が歪んで見えて哀しくなった。
それか、まださっきのバスの中に、わたしは立っているのかもしれない。