訊くと、本当にわたしの家からはそう遠くない距離で、自転車で行けば10分くらいで着きそうなところだった。学校からは柊碧人の家のほうが近いし、わたしが途中下車してもそんなに遠回りにはならないから、うまい断り文句が浮かばなかった。
空気を読んでやっぱりいいよって断ってほしかったのに、「断れると思う?」と、柊碧人は柔らかい口調で言った。
その肩越しに、タケちゃんが見えた。さっきと変わらず同じクラスの男の子と、楽しげに話している。
有村先輩は、もういなかった。
目を逸らそうとした瞬間、タケちゃんがわたしを見た気がしたけど、わたしは、前髪を撫でて顔を隠した。
それが頷いたように見えたのか、柊碧人は「携帯」と、言って催促する。
「なに?」
「番号知らないから」
断ることが無理に思えて、仕方なくブレザーのポケットにいれていた携帯を手渡した。
「俺のも赤外線で送っておくね」
そんなのいらないのに。
なんだかうるさい。周りが、声が。
つまらないロープレのゲームでもしているみたいだった。勝手に物語が進んで、のめり込めずただ参加しているだけ。わたしのことなんか無視して進んでいく。
柊碧人もタケちゃんもその友達も、みんないなくなってしまえばいいと思った。
うるさすぎる学食は、強くなった雨脚にさえ気づかないみたいに、笑いばかりこだまして、わたしを少し不快にさせた。