紙切れだけじゃ不完全

こんばんは


私は
万老廬魯依(バンロウ ロロエ)


高校3年生の女の子




私は
高校の担任である
白星叶温(シラホシ カナハル)先生と

いわゆるお付き合いっていうものをしているの




でも
白星先生は既婚者

奥さんと小学3年生の子供がいるの




つまり

私とは不倫になるんだけど





でもね


先生は優しいの

凄く優しいの




苗字は仕方がないにしても

廬魯依なんて
変な名前を付けられて


幼稚園時代も
小学時代も
中学時代も

からかわれ続けて




だけどね

白星先生は可愛いねって

言ってくれたんだよ




だぁれも気付かなかった嘘を見抜いて

ブラックホール並みの闇に落とした涙も

それを隠す為に付けた偽りの仮面も



どうしたの?って



優しい声で

簡単に暴いてくれたんだ

でもね

白星先生は

皆に優しいから
優し過ぎるから

とぉーってもモテるんだよね



グルグルと廻る混沌の思考に陥って



黒い天使と白い悪魔が

目の前に現れて問いかけるの




これは私が造り出した妄想だって



親でさえ無関心になる私なんかに

優しくする筈がないって




けどね

言ってやったのよ




白星先生に救われた世界を
現実だって証明出来ないけど


夢の世界だと立証することも
出来やしないでしょって




明暗がくっきりと分かれた世界で


微笑んでいいのは


私だけなのよ

誰にも負けたくなかったんだ



白星先生を好きな気持ちだけは




だから藻掻いたの



宇宙の様な広い広い

白星先生の心の隅っこで



誰かと比べられてばっかの
そんな私にだって

優れているところがあるって



周りを観察する様に見ては
私より劣るところを探した




だって
白星先生に可愛いねって言われたんだよ?




追い付きたいじゃん
白星先生に相応しいと思われる人に



追い越したいじゃん
白星先生が見ている人に





本気を出してないだけだから




白星先生は私ものだって


白星先生は私の方が良いって



誰もが絶対分かるから

軽い気持ちで何気なく呟かれる


卑しい意思を持って触れられる




白星先生に纏わりついて離れない



甲高い猫なで声と薄汚い身体





誰かの腕に抱かれているなんて



醜い感情の渦は勢いを増す





気付いた時にはもう戻れなかった



もしかしたら

気付かないままでよかったのかも知れない




だって私は

底無しの闇へ
自分から堕ちることを望んだんだから

私は

白星先生の発する

美しい声‐ノイズ‐に魅せられた



薄暗い空間に咲き乱れるのは

香しき妖美な花





白星先生が吐き出した

真っ白な愛の証は

ちょっと苦かったけれど


それはきっと

私を清める為の毒‐クスリ‐だから


とっても嬉しかった







白星先生は


皆に優しいけど

奥さんも子供もいるけど







愛しているのは


私だけだって






白星先生は…………




叶温は言ってくれたのよ






愛を確かめ合ってる最中も


2人っきりの時も


電話やメールでも







なのに

叶温は引きずり込まれたんだ




真っ黒な嘘で塗り固められて

構築された真っ白な虚無の世界に

囚われてしまった






勉強だって

ダイエットだって

メイクだって

髪型だって

服だって

雑用だって




叶温の為に良い子でいたのに



叶温が褒めてくれるから頑張ってたのに






今年受験だから今は集中しろって


何よそれ





受験だから


叶温と勉強したいんじゃん

一緒に居たいんじゃん






誰かに優しくすることはあっても

最後には必ず私のとこへ帰って来てくれたのに







なんで
今日も私は独りなの?







叶温を侵食した闇は

私が貰った光も吸収していったんだ





叶温を信じていた私は



叶温を信じたかった私は





もういない

だから

私は今ここにいるの




どこを見ても

眩い人工的な光が照らす世界しかないから




目についた
誰もいない寂れたビルに登って

頭上を見上げても
求めていた輝く光は見えなくて






口を開けるだけの

音にならない声で叫んだんだ





誰かに見付けて欲しかったから



叶温に見付けて欲しかったから






叶温の居る夜明けを望んで


叶温の居ない夜更けを拒絶した







けど

きっと届かないね






分かっているんだ

そんなこと







手を伸ばしても届かない闇と



手を触れたくない光があることを






私は

叶温に教えられたから

叶温で学習したから

夜風が気持ちいいな



少し冷たいぐらいが丁度いい






腰掛ける縁から見下げた視線の先には






目を奪う様な
美しい蝶に見せ掛けた


絡め捕る様に
醜い蜘蛛が舞い踊っている







きっと
叶温はいる



ううん
絶対いる






だってさっき見掛けたから



ビルに登る前に



ピンク色した光に吸い込まれたのを




私が見間違えるはずなんてないから







だから

だからね





叶温がいるその世界へ

私もイキたくて






見えもしない叶温目掛けて

飛び込んだんだ

拝啓、白星叶温様







私の最期の姿はどうですか?





華麗に咲きほこりましたか?





散らばった赤は世界を染めましたか?





貴方に捧げます





全身全霊のこの愛を







万老廬魯依、敬具