ブロッホは、謝罪するかのように頭を下げて、何も語らない。
「ブロッホ!」
マヤが無理をして、ミルを危険に晒すような行為を、”なぜ”俺に相談をしないで実行した。その理由が知りたいだけだ。
「リン。ブロッホは、悪くない。僕とマヤで決めた」
「ミル・・・。だから、”なぜ”を知りたい」
「リン。この神殿の、最初の拡張はリンがしたよね?」
「あぁ皆が過ごしやすいように・・・。虐げられた者たちでも、安心できる場所を作りたかった」
「うん。ロルフから話を聞いた。上位種であるアウレイアやブロッホは別にして、リデルやヴェルデやビアンコたちは、怯えながら生活をしていた」
「あぁ」
「リンが行ったことは、僕もマヤも賛成だよ」
「ん?ミル。それと、神殿の拡張とどう繋がる?」
「リンが、皆を神殿に招き入れて、名を与えた」
「あぁ」
話を横道に・・・。と、思ったが、ミルは俺をまっすぐに見ている。誤魔化し・・・。とは違うようだ。
「それで、僕とマヤが目覚めたことで、神殿とリンの関係が深くなって、それに伴って、皆との繋がりも強化されてしまった」
「ん?強化?繋がりが?」
「うん。リンは気がついている?」
「え?何に?」
「リンの力が・・・。ステータスが、すごいことになっている」
そういえば、ヒューマを眷属に加えたときに、ステータスの上昇が発生した。そうか、その後に、アウレイアやアイルやリデルやジャッロやビアンコやラトギを眷属に加えた。ブロッホも眷属だったな。
「リン。眷属たちにも、眷属が産まれて、安心できる場所で眷属が増えている。気がついている?」
「それは・・・」
「気にしていなかったでしょ?」
「すまん」
「ううん。それでね。リンの眷属になると、眷属にもフィードバックが入って強くなるの」
「え?強くなるのなら問題はないよな?」
「うん。ここが、神殿でなければ・・・」
「どういうこと?」
「リンや、僕や、マヤは、問題にはならないけど、眷属たちは、魔力が必要なのは知っているよね?」
「あぁ」
「その魔力を、神殿から得ているのも?」
「ロルフから聞いた、渡した魔石を充当したことで、大丈夫になった。と、思うけど?」
「”まかなえる”けど、収支は完全に赤字だよ」
「・・・。そうか、強くなっているから、必要になる魔力も増えている・・・。って、ことか?」
「うん。ロルフが説明したか、知らないけど、眷属からは魔力の吸収は、出来ない。そのまま、眷属の増強に使われる」
「それは、眷属の眷属もダメなのか?」
「うん。確認した。リンの眷属に連なる者はダメ」
「そうか・・・」
「それで、マガラ渓谷を、神殿に組み込むように拡張した」
「ん?」
「マガラ渓谷には、魔物が居る。人も通る」
「そうか、そこから魔力を吸収するのか?」
「うん。そのために、必要な魔力を確保するのに、魔力溜まりを吸収した」
ミルは、最後の最後で、俺から視線を外した。最後のセリフ以外は、本当のことなのだろう。
「ミル?」
ミルに視線を合わせると、ミルは観念したかのように俺を見つめる。
「ミル。他に、方法が有ったのだろう?」
「え・・・。うん。でも・・・」
「教えて欲しい。ミル」
「・・・」
ミルを見つめる。
しっかりと目線をあわせてくれている。
「わかった。ロルフは、神殿の拡張の話が出たときに、リンに話をしようとした」
「あぁ」
「条件を聞いて、僕とマヤが反対した」
「ん?それは、条件が難しかったからか?」
「ううん。違う。ロルフが言った条件は、僕とマヤの気持ちを別にすれば、簡単・・・。だった・・・。かも、知れない」
「”簡単だった?”」
「うん。リンの、力を使って拡張することを、ロルフは提案してきた」
「それなら、俺の力なら、いくらでも・・・」
「だから、反対した。ロルフに、しっかりと説明させたら、リンの魔力を使うことになる」
「ん?でも、魔力なら、回復するよな?」
「・・・。うん。でも、魔力で足りなければ、生命力を使うと・・・」
「それでも!」
「リンなら、そういうと思った。でも、僕とマヤも同じ、リンの魔力や生命力を使って拡張して、もし・・・。リンが僕たちの目の前で倒れたら・・・」
「・・・」
「だから、マヤが自分たち魔力を使うと言い出した。ロルフが反対した。でも、神殿の拡張は必須」
「それで、ミルがマヤを説得して、魔力溜まりを吸収して、拡張に使おうとしたのだな」
「うん」
「事情は、わかった。ミル。次からは、俺にも相談してくれ、いきなりだと困惑してしまう」
「うん」
解りやすい。
目をそらしたから、俺に関係することだと、内緒で行動するのだろう。
でも、拡張が必要な理由はわかった。でも、そうなると、マガラ渓谷だけでは、足りなくなりそうだな。実際の所の収支をしらないから、考えられないけど、神殿を開放して・・・。ミルとマヤが反対しなければだけど・・・。
「それで、ロルフは?」
「・・・」
「ミル。ロルフは?」
ミルが目をそらす。
さては、マヤが眠りに入ってしまった事で、”俺が怒る”と思って、逃げたか?
「ブロッホ!ロルフを見つけて、俺の前に連れてこい」
「はっ」
後ろで控える形になっていた、ブロッホが立ち上がって、この場から逃げるように、立ち去った。逃げようとしたわけじゃないよな?
「リン?」
「ん?」
「怒っている?」
「ロルフに対して、怒っているだけで、マヤやミルには・・・」
「僕たちには?」
「あぁ・・・。多分、俺が先にロルフから、話を聞いていたら、マヤとミルに相談しないで、決めていた。だから、マヤとミルには対して怒っていない」
「!」
少しだけ、うつむき加減だった顔が、嬉しそうにしている。俺が、マヤやミルに怒るわけがない。今回のことも、俺が先に気が付かなければならなかった。魔石を渡せば大丈夫だと思っていたが、たしかに、消費するばかりで、収入がなければ、どこかで立ち行かなくなってしまう。そんな単純なこともわからなかった。知ろうとしなかった。
「え・・・」
ミルが挙動不審な状況になった。
顔を押さえて、悶え始める。
「どうした?」
『もう!』
「え?」
ミルの身体が少しだけ光ったと思ったら、俺の方に倒れてくる。
そのまま抱きかかえるような状況になった。
「ミル?大丈夫か?マヤか?」
ミルは、俺の腕の中にで、まだ悶えている。
「ミトナルさん?」
「え?あっ・・・。ううん。マヤ・・・。だけど、違う。リン」
「ん?どうした?耳まで・・・」
そこまで言うと、ミルが首に手を回してきた。
抱きつく格好になる。女の子らしい感触が身体に伝わる。
「リン。僕とマヤは、二人で一人。気持ちも同じ」
「え?」
「ううん。そうだ!リン!神殿の拡張が終わったら、神殿を整備しよう!」
身体を離して、ミルが俺の手をにぎる。何かを誤魔化したな。でも、今はミルの誤魔化しに乗っておいたほうがいい。俺の感が警鐘を鳴らしている。
そうだな。ミルの言っている通りだ。アゾレムへの嫌がらせの効果を上げなければならないし、それ以外にも、いろいろやらなければならないことが多い。まずは、神殿の整備だな。
それから、王都に戻って、ナッセやハーコムレイに会って話をしないと、どこまで話をするのか、ミルとマヤとロルフと眷属たちと話をして、決める必要がある。それから、神殿の収支を改善する方法も考えないと、やることが多いけど、充実している。
「そうだな。まずは、ロルフを問い詰めてから、神殿の収支を確認しないと、話が進まない」
「うん!リン。瞳たちはどうするの?」
「どうする?別に、何も考えていないけど?」
「え?」
「ん?どうして?」
「”どうして”の、意味がわからないのだけど?」
「リンが、瞳たちを守るのかと思った。マヤもそう思っていたよ?」
「え?俺が守る必要はないよな?瞳・・・。イリメリやタシアナやルナリーナは、チートを持っているよな?」
「そうだけど・・・」
「どうした?」
「ううん・・・」
「何か、考えがあるのか?」
「うん。僕は、多分、マヤと一緒になったから、ルールでどうなるかわからない」
ミルが言いたいことが理解できた。
アドラのゲームでの勝敗を決めるルールのことを言っているのだろう。
そうだな。少しだけ整理したほうがいいかもしれないな。