「ミル。この部屋を使ってくれ」
ミルを案内した部屋は、マヤの部屋だ。破壊された家の中で比較的に破壊が少なかった部屋だ。荷物が少なく、見ただけで何も無いのがわかるためだろう。
「この部屋?僕、リンと同じ部屋でも・・・」
「駄目だ」
「わかった。この部屋は?」
「マヤが使っていた部屋だ。ミルなら使っても文句は言わないだろう」
「・・・。ありがとう」
ミルの”ありがとう”の意味がわからなかった。
「リン。マヤの部屋に入る前に、僕・・・。水浴びがしたい。汗や血で汚れているから、マヤに失礼」
「あぁ悪い。気が付かなかった」
「え?」
「ん?」
「気が付かない?」
「あぁミルは、俺やマヤを心配して急いでくれたのだろう?どうして、ここに居ると思ったのかは、後で教えてもらうけど、俺たちのために急いでくれた人を汚れているとは思わない。それに・・・」
「それに?」
「あっ・・・。ミルは、綺麗だよ」
「え?僕・・・。綺麗?」
「え?あっ。あぁ綺麗だよ」
「うれしい。でも、やっぱり、水浴びがしたい。ダメ?」
「いいよ。着替えも、マヤの物でよかったら使ってくれ、サビニの奴は・・・」
俺は、ミルの一部を見る。サビニ、俺とマヤの母親とは、一部のサイズが違う。ミルでは圧倒的にボリュームが足りない。マヤとミルなら、同じくらいだろう。かろうじて、ミルの方が大きいかもしれないという位だろう。
見られているのが解ったのだろう。ミルが腕を組んで、俺を見ている。
「リン。何を考えたの?」
「たいしたことじゃないよ。水浴びなら、裏にシャワーがある。壊されていなかったから使えるよ」
「ありがとう。気になるのなら、一緒に浴びる?見て、触っていいよ?」
「ミトナルさん?」
「だって、リン。僕のおっぱいを見ていたよね?マヤよりは、大きいと思うよ?触る?」
「触っても、わからないし、今は触らないよ」
「今は?」
「え?あっ・・・。いいから、シャワーを浴びなよ」
「うん。でも、使い方がわからないと思うから教えて」
「わかった」
ミルを家の裏につれていく、ニノサが作ったシャワー室だ。
ここも破壊されていたが扉だけだ。中は、そのままになっていた。本当に、何がやりたかったのかわからない。
シャワーは、誰かが魔力を注げば、水かお湯が出る仕組みになっている石鹸はないが、汚れを落とすだけなら十分だろう。ミルなら、魔力もあるから、注ぎ方だけを教えれば使えるだろう。プールについているような固定されたシャワーだから大丈夫だろう。
「ありがとう。リン。声が届く範囲に居てくれると嬉しい」
「そうだな。わかった」
ミルが不安になるのもわかる。
俺しか居ないと解っていても、ドアも鍵もない場所だ。アイルたちが周りを警戒しているといっても、魔物が現れる可能性だってある。
「リン?」
「居るよ」
「うん」
ミルが、服を脱いでいる音が聞こえる。
少しだけ距離を離したほうがいいかもしれない。
「リン。近くに居て」
どうして、俺が離れようとしたのがわかったのだ?
「近くに居るよ」
「一緒に入る?僕は、それでもいいよ?」
「ミトナルさん?」
「うー。リンのガードが硬いよ。男子高校生なら、JKから誘われなくても、襲ってくるシチュエーションなのに・・・」
「ミトナルさん。心の声が漏れていますけど?それに、襲う前提で話をするのは辞めてください」
「リン」
「なに?」
声のテンションが変わる。真面目な話をしだすのだろう。
シャワーで声がかすれているけど、何かを思い出しているのかもしれない。
「僕が、ここに来た理由だけど・・・」
「うん」
シャワーの音が聞こえる。
しっかりと使えているのだろう。ミルのセリフで、水の音が気にならなくなっていく。
「僕ね。マガラ渓谷に、リンとマヤが落ちたと知らされた時に、マガラ渓谷を降りようとしたの」
「え?」
「だって、リンが居ないのなら、僕が生きている意味は無いよ」
「・・・」
「でもね。ナナさんから話を聞いた。村長の手首を切り落とした者が居るはずだと・・・。僕は、リンがやったと思った。そこまで、リンを怒らせた者が居る」
「あぁ確かに、村長の手首を切り落とした。でも、奴は・・・」
「魔法薬を使ったのね。領主の屋敷に使いを走らせたらしい」
「多分な。奴の家から、大量の金が見つかった。村の予算を、多分それ以外にも・・・。横領していた。それで買ったのだろう」
「僕は、難しい話はわからない。リンを殺そうとした奴が居る。僕は、そいつが許せない。ナナさんに無理を言って、リンの出身を教えてもらった。ごめん」
「いいよ。こうして来てくれたのだからな」
「そう言ってもらえるとうれしい。僕のわがままだった。リンを殺そうとした奴を殺して、次に命令した領主を殺して、立花を殺してから、皆にリンの名前でギルドを作ってもらってから、僕はマガラ渓谷にリンとマヤを探しに行こうと思った」
「そうなのか?」
「うん。だから、まずは、リンの家に言って、確認しようと思ったら、魔狼の群れに襲われた」
「あぁすまん」
「ううん。大丈夫。魔狼の群れを鑑定したら、”フリークス”という名前が付いている。”名”を持っているわけではない。皆が同じ”名”を持っていたから、ファミリーネームなのかと思った。”フリークス”はリンのファミリーネーム。だから、魔狼に問いかけた、”リン”を探していると・・・」
「そうなのか?」
「うん」
「安易に考えすぎたか?」
「うん。でも、フリークスを知っているのは、関係者だけだと思う。それに、アゾレムの連中に知られても、リンのお父さんが何かしたと思うはず。リンのジョブは、僕しか知らない!」
そうだった。
ミル以外は知らないはずだ。気がついても、確認が出来ない。俺が、神崎凛だと知っているのは、ミルだけだ。マヤも知っているが、興味は無いだろう。
「リン。シャワーありがとう。出ても大丈夫?」
「あぁ」
あっ!
確かに、シャワーの音はしていなかった。鳴り止んだ。
全裸の状態で、全身が濡れた状態の美少女が目の前に立っている。スタイルがいい。顔も綺麗。肌も信じられないくらいに綺麗だ。
「ミル!」
「ん?着替えがない」
「だったら、言ってよ。タオルくらい持ってくるよ」
「リンが拭いてくれるの?」
「拭かないよ。ちょっと待っていて、すぐに拭くものを持ってくる」
「うん。待っている」
確か、キッチンに行けばタオルがあったはずだ。最悪は、俺のシーツを使えばいいか?全身を隠せるし丁度いいかもしれない。
キッチンのタオルが置いてあった場所は破壊されていて、タオルも汚されている。俺の部屋に移動してシーツを持っていく。
「ミル。またせた。タオルが無かったから、これで身体を拭いてくれ」
「ん。これは?」
「俺が使っていたシーツだ。悪い。破壊されていて、こんな物しかなかった」
「ううん。僕へのご褒美だ。嬉しい」
「え?」
「リンの匂いが付いている。リンに抱かれているように感じる」
「ミル?」
「うん。わかっている」
ミルは、俺の目の前で恥ずかしがる様子を少しだけみせながら身体を拭いている。
全裸にシーツを巻いた状態で、家に戻った。二人でマヤの部屋に入った。
字面だけを考えると、その後の展開が期待できるが、ミルにマヤの服を着せてから、食事の準備に入る。破壊されてしまったキッチンは使えないので、リデルたちに頼んで、簡単な竈を用意した。そこで、アイルたちが狩ってきた、ツノウサギを捌いて食べた。村の食料庫に麦が大量に保管されていたから、ミルが麦や足が早そうな野菜を使って一品作った。
飲み物は、食料庫にワインが保管されていたので、二人でワインを飲んだ。
初めて飲んだワインだったが、アルコールが弱いのか、俺は普通に飲めてしまった。
食事のために作った竈の火を眺めながら・・・。マヤやサビニやニノサと過ごした日常が壊されたことを実感した。
アイルから村長が死んだと聞かされた時にも何も感じなかった。村で、村民たちがお互いを信じなくて、お互いに攻撃していると聞かされても、”そうか”しか感想がでてこなかった。
竈の中で、爆ぜる火が俺の心を焦がしているようにも思える。
マヤ。俺は、どうしたらいい?
サビニ。俺は、何をしたらこの気持が晴れる?
ニノサ。俺は、何をしたいのだろう?