そこは、アロイの街でも一番と言ってもいい豪華な宿の一室だ。
 一人の若者がソファーに座っていた。陽も沈んで辺りを闇が支配している。

 豪華な部屋には不釣り合いな、小汚い袋が一つ、若者の前に置かれていた。
 床には、袋の中身だと思われる物が、散乱していた。安っぽい服や食料品がゴミのように扱われていた。

「おい。間違いなく、あいつらの部屋の荷物はこれだけだったのか?」
「はい。ウォルシャタ様」
「むっふむ・・・」
「どうかされましたか?」
「あいつらはこれ以外に荷物を持って居なかったか?」
「男が、外に出るのを見張っていましたが、そのときには、手ぶら状態でしたし、女は宿から出ていません」
「そうか(オヤジは何を恐れているのだ?)」
「どうしました?」

 ウォルシャタは、領主の思惑が解らない為に、対処が取れないで居る。
「(いっその事殺してしまうか?もしかしたら身に付けているかもしれないからな。オヤジにはおかしな行動はなかったと報告すればいいよな)ふむ一考の価値がありそうだな」
「「!?」」
「おい。護衛はまだ居るのか?」
「っはい。すぐに呼んできます。リーダだけで良いのですか?」
「あぁリーダだけでいい」

 一人の男が立ち上がって、ドアから出ていった。
 ウォルシャタを中心に集まっている者達は不安な表情を浮かべて居た。
 床に散らばった者を眺めているしかなかった。

 しばらくして、リーダを連れて戻ってきた。
「なんだ、酒でも飲んでいたのか?」

 酒精の匂いをさせたリーダが戻ってきた。
「ぼっちゃん。そりゃぁ飲みますよ。でも、大丈夫ですよ。まだ1本程度しか開けていません」
「まぁいい。それで明日からの事だが」
「はいはい。護衛はしっかりやりますよ。坊っちゃん達を4人で守れば、ミッションクリアですよね」
「そうだ。それ以外にもやって欲しい事がある」
「何でしょうか?」
「そうだな」

 ウォルシャタは、リーダに対して、リンとマヤを渓谷に落とせと命令した。
 方法は任せると、その時に荷物は出来る限り落とさないようにしろとの事だった。

 リーダは少し考えて
「それなら、二人が橋を渡るときに誰かが体当たりして落とす感じにしてはどうでしょうか?」
「荷物はどうする?」
「それですが、橋を渡る時に、護衛が一時的に荷物を預かって渡るようにしてはどうでしょうか?」
「そうだな。あいつらが持っている荷物が手に入るのならそれでいい」
「わかりました。それではそうなるように手配します」
「それで、誰に体当たりさせましょうか?」
「人選はお前に任せる」
「わかりました。坊っちゃんを慕っている人間から選ぶようにします」
「おぉそうしろ」

 明日に備えて、解散する事になった。
 部屋からリーダが出ていって、集まっていた人間も部屋を出ていった。
 残された、ウォルシャタはベッドに転がり込んで、抑えていた。人に命令する優越と興奮を爆発させていた。

「ハッハハ。クック。俺はオヤジと違う。力も知恵もある。オヤジの様に辺境の領主で終わるような事はない。パシリカで力をつけてもっともっと権力を持つ」

◆◇◆◇◆◇◆◇
「どうしました?」
「あ」
「坊っちゃんに呼ばれたのでしょ?」
「あぁ」
「何か合ったのですか?」
「いいから酒もってこい。」
「はいはい」
「・・・」
「どうしたんですか?」
「あいつ。俺に子供を殺せって言ってきた」
「え!?どうするんですか?」
「どうするも、命令には従うよ。そういう契約だからな」
「・・・」
「おい。確か、なんて言ったかな、アロイで雇った奴。確か、あいつ橋から落ちて生還したよな」
「あぁガルドバですね。何度か、橋から落ちているって言っていましたよ」
「そうか、呼んできてくれ」
「はいはい」

 一人のお事が別の宿屋に走っていった。
 暫くしてから、二人になって戻ってきた。
 リーダは、ガルドバと呼ばれた男と渓谷の形や橋の形状。落ちた時の話を朝になるまで詰めていた。

「ガルドバ。それでは、頼むな」
「はい。わかりました。信頼して貰っていいですよ。失敗したら、私も一緒に落ちてしまいますからね」
「あぁそうだな」