ギルドの入口が見えてきた。
しっかりと見張りが立っている。
知らない顔だ。
ハーコムレイかローザスが雇った護衛か?
「なぁリン。大丈夫なんか?睨まれているぞ?」
「大丈夫だ。女子・・・。重久が中心になって作った組織だ。重久は、フェナサリム・ヴァーヴァンが名前だからな。間違えるなよ」
「おっおぉ」
「本当に、大丈夫か?」
「大丈夫だ。名前を覚えるのは得意だ」
まぁ困るのは、オイゲンだからいいけど・・・。
後ろを振り返ると、奴隷の少女たちが、俺とオイゲンの会話を聞いている。不思議な表情を浮かべている。
ハーフエルフの少女と視線が交差した。
「どうした?」
「いえ・・・」
「ん?何か、疑問が有れば、聞いてくれ、その方が、俺も嬉しい」
ハーフエルフの少女は、獣人の少女たちを見てから、立ち止まった。
俺とオイゲンも、少女たちに合わせて、立ち止まった。
「はい。あの・・・。ご主人様と、オイゲン様は、お知り合いなのですか?」
「難しい質問だ。詳しくは、オイゲンに聞いてくれ」
所謂、丸投げだ。
別に教えても良いとは思うが、オイゲンが奴隷の少女たちと心を通わせられなかったら、困ってしまう・・・。ことは、ないのか?
俺の奴隷なのは、確かな事実だ。その上で、オイゲンから離れたいと言い出したら、違う仕事を割り振ればいい。
「わかりました。オイゲン様」
「ん?何?」
オイゲンの声が上ずっている。
気にしないようにしているのだろうけど、気になってしまっているのだろう。
「私たちに、名前を頂けないでしょうか?」
「名前?」
「はい」
おかしな事は言っていない。
奴隷になってから、名前が消されている。真名はあるのだが、真名を呼ぶのは、控えた方がいい。奴隷を奪われてしまう。そのために、”呼び名”が必要だ。
「うーん。落ち着いてからでいいか?」
「はい。お願いいたします」
一応、オイゲンに釘を刺しておいた方がいいかもしれない。
何気なく、好きなアニメやマンガのキャラ名を付けそうで怖い。俺も、それほど詳しいわけではないが、ハーフエルフと獣人に、似たアニメキャラは存在するだろう。俺が、知らなくても、誰かが気が付いたら・・・。大丈夫だとは思うけど・・・。
「オイゲン。解っていると思うけど・・・」
「ん?」
「アニメやマンガのキャラ名はやめておけよ。似ている位ならいいけど・・・」
「・・・。ん?あっそうだな」
解っていなかった。
意味は解ってくれたようなので、大丈夫だろう。
先にギルドに行ってもらっていたセバスチャンが、俺を見つけてギルドから出てきた。
「セブ」
「ご主人様。皆さまには、簡単にご説明を致しました」
セバスチャンが、オイゲンと奴隷の少女たちを見ながら、自分の事や購入した奴隷は、簡単に説明をした。
そういえば、同じ神殿だけど、マガラ神殿で”パシリカ”が行えるのか?
ロルフに確認した方がいいよな。もし、マガラ神殿でも行えるのなら、奴隷の少女たちのパシリカが行える。それだけではなく、奴隷になってしまったから、パシリカが行えていない人たちが居ると聞いたことがある。できるのか、確認しなければならないけど、話を聞いていると、出来そうな雰囲気がある。
「ありがとう。後は、オイゲンの事だけ?」
「はい」
セバスチャンは、優雅に一礼してみせた。
面倒な説明が残ったという事だな。
「皆は?」
「ギルドでお待ちです」
やっぱり・・・。
待っているのか?
神殿に案内をすると約束しているから、待っていてもらわないと都合が悪いけど、オイゲンの事とか説明が少しだけ面倒だ。
面倒だと思っていても・・・。
オイゲンと奴隷の少女たちを連れて、ギルドに向かう。
やはり、入口で止められた。
奴隷の少女たちは、連れていかれた。
俺とオイゲンだけが残された。
戻ってきたのは、フェムだけだ。
「リン君?」
フェムは、部屋に入ってきて、オイゲンを無視して俺に話しかける。
俺は、関係ないよな?奴隷の少女たちは、オイゲンに任せたと説明している。ギルドのメンバーも納得している。
「え?俺?」
「話を聞けば、貴方が”主人”なのよね?」
確かに、名義は俺だが、主人はオイゲンだ。
「金を出したのは、俺だからな。でも、実質的な主人は、オイゲンだ」
「それは、いいの。彼女たちから事情を聞いている。オイゲン君を”主”だと認識していた」
オイゲンの事は、オイゲンとして認識することにしたようだ。
茂手木では話がややっこしくなってしまう。
「なら!」
「彼女たちの服装は何?狙っているの?あんな服装が、リン君の好みなの?」
「え?あっ!違う。あれは、オイゲンが気に入るように仕向けるために・・・」
「リン君が選んだのよね?」
ダメだ。
言い訳ができない。確かに、俺が選んだ。それは正しい。でも・・・。ダメだ。フェムの視線は、俺が認めるまで追及してくる視線だ。ここは、認めてしまったほうが、傷が浅くなる。
「はい。そうです」
「次、オイゲン君」
!
服装を問題ではないようだ。
フェムが何を確認したいのか解らない。
「え?俺?何?自己紹介もまだだけど?」
「自己紹介は、追々やっていけばいいでしょ?違う?」
「はい。間違っていません」
あぁ確かに、日本名での自己紹介はしていない。
フェムの言い方では、追々やっていくつもりなのだろう。それか、日本名の自己紹介をしないつもりか?
「フレットに聞いて、驚いた。君。パシリカで大騒ぎを起こしたらしいわね?馬鹿なの?」
「反省しています」
え?
「さて、リン君」
それだけ?
反省しているだけでいいの?
「何?」
「マガラ神殿の話は、大まかに聞いて納得している。でも、前に聞いた時には、オイゲン君は居なかったよね?オイゲン君に何をやらせたいの?」
「うーん。分類をすると、通路の運営はギルドに任せたい。オイゲンは、ギルドで活躍をする・・・。広告塔かな?」
簡単に説明はしているけど、オイゲンとギルドで話し合ってもらいたい。
俺が決めるのは、簡単な方針だけだ。
「広告塔?」
「あぁマガラ神殿には、訓練用のダンジョンがある。そこで、ギルドに来た依頼の素材を、オイゲンに取りに行かせる」
「え?リン君はやらないの?」
「俺は、別の事をしようと思う。それに、オイゲンならダンジョンの改善点とか、施設の改善点とか、出せるだろう?」
「ふぅ・・・。わかった。リン君の提案に、全面的に乗るか、話し合いをする時間を頂戴。オイゲン君の事を含めて・・・」
状況が変わったから、話し合いの必要性があると考えているようだ。
俺が、オイゲンを奴隷として連れてきてしまった。奴隷の少女だけではなく、セバスチャンや他の奴隷も居る。俺が、奴隷商に言っている最中に、ローザスやハーコムレイから話を聞いたのかもしれない。
「わかった。それで、ミルは?」
「ミアちゃんとレオちゃんを連れて、宿に移動したわよ。リン君が初めて、使った宿だから覚えている?」
「大丈夫だ。オイゲンは、置いていくから、好きにしてくれ」
「えぇ」
オイゲンが、俺を見て”なぜ?”という表情をしているけど、”連れて行く”と思っていたのか?
ギルドのメンバーに自己紹介をしてもらわないと困る。
それに、奴隷の少女たちの名前も考えていない。
修羅場は回避できたようだ。
ギルドの王都本部?から出ると、俺の考えが甘かったと思い知らされた。
そこには、豪華な馬車が止まっていた。
無視して通り過ぎるには、難しい視線を俺に投げかけている。
ローザスが、馬車から降りて、しっかりと俺を見定めて、手招きしている。
馬車の中には、ハーコムレイの姿が見えることから、逃げられそうにもない。セバスチャンも、すぐに理解したのだろう。ローザスに近づいて行って、話を聞いている。
「ご主人様。殿下が、”話を聞きたい”との事です」
そうだろうね。
雰囲気でわかった。セバスチャンに案内されるように、馬車に近づいた。
そのまま、ローザスが俺を馬車に案内する。
セバスチャンは、固辞したのだが、ローザスが半ば無理矢理に、セバスチャンを馬車に乗せた。今後の話もあるので、セバスチャンにも効かせた方がいいだろうと・・・。一応、理由を説明している。
そもそも、継承権を持つ者が、”気軽に平民に会いに来るな”と言いたい。