「タクミ。話は?」
「あぁ・・・ユウキの方は?」
娘さんの名前は、早苗と言うらしい。商業に通っている事は間違いないようだ。母親が言っている事と相違がなかった。
答え合わせをするように、確認をしていくが、”いじめ”の部分以外では違いはなさそうだ。問題になりそうな事は
「ユウキ。早苗さんは、塾は辞めてもいいと言っていたのだな?」
どこからか確保してき新しいケーキにフォークを刺しながら
「うん。今の塾も、受験対策だけしかやってくれないから、自分が”やりたい”事じゃないって話していたよ」
「そうか・・・」
「タクミ。何が有ったの?」
「え?あぁなんでもない。未来さん」
「そうね。母親に言っている事と違うのは、その点だけみたいね」
ユウキが、なにか聞きたそうにしていたがスルーしておく、話したら、絶対に首を突っ込むだろう。ユウキは、ワイルドカードとして手元に置いて置かなければならない。
「そうだ、タクミ。学校での事を教えてもらってもいい?」
ユウキも一緒だったが、噂にもなっているようだし、別に問題ない・・・か。
未来さんに、学校で発生した”いじめ”と対応方法を説明した。
「タクミ。そんな事をしたの?」
「あぁ”俺”がやったわけじゃない。提案しただけだ」
「・・・それで、克己さんは?」
「オヤジ?さぁ何も言ってこなかったらか、やり方は間違っていないと思うよ」
「そう・・・その時の資料とかある?」
未来さんに資料を電子データで渡した。
今日は、未来さんも内容を確認したいということだったので、解散することになった。
ユウキが、美和さんに電話をかけるが、今日は遅くなるということだ。桜さんは、今日も泊まり込みの様だ。
俺の両親も、今日は二人とも遅くなるという返事が帰ってきている。
「タクミ。どうするの?」
「そうだな。ユウキがこの前行きたいって言っていた、オムライスが美味しい店にでも行くか?」
「え?だって、あそこ歩いて行ける距離じゃないよ?」
「あぁそれは多分大丈夫。確認するから、待っていろ」
スマホを取り出して、先日からメッセージが、煩く届いている人物にメッセージを出す。
数分後、既読マークが着くと同時くらいに、スマホに着信がある
『キミ。急だね』
「そりゃぁ面倒な人にお願いする時の鉄則ですからね」
『面倒って誰のことだね?』
「今、俺と話している人ですよ。お願いってよりも、副会長にもメリットがある話ですが乗りませんか?」
『それは、この前の件での貸しを潰してもいいくらいのお願いなのか?』
「そうですね。副会長への貸しならまだ沢山作れそうですからね」
『キミは・・・。まぁいいそれで?』
「会長を誘って、俺とユウキを乗せて、ドライブしませんか?最終目的地は、オムライスが美味しい店で、好きな物をおごりますよ?」
『・・・何を考えているのかわからないが、その話乗ろう。美優もキミの誘いなら断れないだろう』
「頼みますよ。運転は、副会長が?」
『美優もできるのだが、僕の方が、安全だからね』
「わかりました。今いる場所は、後で、GPSデータを送ります。1時間後くらいで大丈夫ですか?」
『市内だろう?大丈夫だ』
「よろしくお願いします」
通話を終えると、ユウキが不思議そうな顔をしていた。
「タクミ。今の、梓先輩だよね?」
「あぁそうだ」
「梓先輩が迎えに来る?」
「あぁ」
「なんで?」
生徒会長と副会長が、車の免許を取得した。
工業高校という性質上、高校卒業と同時に就職も珍しくない。そのために、3年生は免許取得が奨励されている。そして、卒業と同時に運転することが多く有るために、土日や休みのときに、免許取得者は、運転が推奨されている。その時の条件が、”運転免許保持者”が同乗していることとなっている。
そんな些事はどうでも良くて、二人を呼び出したのは、足にしたかったこともあるが、二人が、高田さんが通っている塾に通っているからだ。
待ち合わせ場所で、話をしていると、真っ赤な Audi が目の前で止まった。
窓が空いて、会長が俺を手招きした。
「タクミくん。今、逃げようとしたでしょ?」
「なんのことですか?そんな逃げようなんて思っていませんよ。でも、会長が、副会長から逃げようとしていたのがわかりました」
「そう、理解してくれたようで嬉しいわ」
もう呼んでしまったからには諦めるしか無い。
車に乗り込む。幸いなことに、運転は普通だった。
目的地のオムライスが美味しい店に着いた。
予約を入れていたので、そのまま席に案内される。
「キミ。それで、僕たちに”お願い”は、車を出すことでは無いのだろう?」
「それも有ったのですが・・・食事してからにしましょう。もし、話がまずいようなら、カラオケにでも行きましょう」
「わかった。美優もいいよな?」「いいわよ。説明してくれるならね」
会長と副会長に、”俺とユウキが塾に通うことになりそうで、先輩方が行っている塾に付いて教えて欲しい”という事にした。ユウキも何かを悟ったのだろう、今日は静かにしている。
デザートを食べたところで、俺の疑問も解消された。
ユウキが聞いてきた通りに、”受験”に特化した塾のようだ。先輩方は、目立つ方なので、もちろん塾でも目立っているのだろう。それを差し引いて考えれば、塾の中で”いじめ”が行われるほどに人間関係が構築できるとは思えない。
”いじめ”は、構築されたコミュニティの中で発生する物だと思っている。極端な話、100人集めて、100人とも接触がなかったら、”いじめ”は発生しないが、100人の中で、半数が知り合いというコミュニティが形成された状態では、”いじめ”が発生すると思っている。
話を聞いた限りでは、学校単位や地域単位でまとまっている程度の状況で、”誰”とわからない状況での”いじめ”が発生するだろうか?
「タクミくん。こんな話でいいの?」
「えぇ参考になりました」
さてどうするか?
コミュ力がある。ユウキに塾に行ってもらうのが一番なんだが・・・。
それから、ユウキを交えた他愛もない話をして、副会長に家まで送ってもらった。
「ねぇタクミ。さっきのって、ミクさんのところで聞いた、早苗ちゃんの行っている塾の話だよね?」
「そうだけどなんで?」
玄関の鍵を空けながら答えた。
どうやら、ユウキはしばらく、こっちの家に居ることにしたようだ。
リビングに入って、定位置になっている場所に腰を下ろす。
「タクミ。僕にできることない?」
「急になんだよ?」
「そうだ!僕も、塾に行こうかな?」
ユウキに、早苗さんと一緒に居てもらえば何らかのアクションがあるかもしれない。でも、ユウキが、つらい思いをするのは少しじゃなく嫌な気分だ。
それに、手口というか、方法がわからない。
先輩たちの話を聞く限り、塾はそれほど大きくない。同じ学校からの生徒も5~6人と言ったところらしい。市内から集まっていると考えると、7~8高に限られると考えていいだろうが、それでもコミュニティを成形するには。一つの集まりが小さく、数が多い。
情報が不足しすぎている。やはり、塾に行くしか・・・無いのだろうな。俺が行くのは得策ではない。最初は、副会長に会長の写真をネタに、動いてもらおうかと思っていたが、思っていた以上に上下のつながりはなさそうだ。
「ユウキが塾に?」
「タクミ。さすがに、僕でも気がつくよ。早苗ちゃんの話が有って、同じ塾に行っている先輩の話を聞いたら・・・」
「そうか・・・でも、お前、部活とかは大丈夫なのか?」
「え?あっ大丈夫だと思うよ。先輩の話では、遅い時間でも大丈夫みたいだからね」
「そうだな。わかった。俺から、桜さんと美和さんに話をする」
「え?いいよ。大丈夫。塾に行くだけだよ」
「・・・ユウキ。お前・・・。以前、塾・・・いや、習字に行った時のこととか忘れたのか?」
「ん?」
可愛く首をかしげる。ユウキの頭を軽く小突いておく。
ユウキの両親に、事情説明のメールを出すことにする。未来さんにも、大まかな方針の相談をしなければならないが、大丈夫だろう。
「そうだね。タクミ。お願いしていい?タクミはどうするの?」
「俺は行かないよ」
「そう・・・わかった!」
ユウキは、しばらくゲームで遊ぶことにしたようだ。
俺は、部屋に戻って、桜さんと美和さんに出すメールと、未来さんへの説明メールを出すことにした。
他愛もないメールなら、平文で送るが、オヤジから、業務に関わることや、秘密の内容の時には、暗号化しろと言われている。
メールの本文を書いて、PGP で暗号化を行う。桜さんはともかく、美和さんにはいつも文句を言われる。曰く、”面倒”だと、俺に言われも困る。そう言えば、美和さんから無茶振りをされていたのを思い出した。暗号化されたメールを復号するときに、生体認証で鍵を選んで復号できないかと言われた。
端末に実装されている生体認証に限らせてもらうが、できないことは無いだろう。そう答えた。”作れ”と言われてしまった。
美和さんの無茶振りは、オヤジにも振っているから大丈夫だろう。気が向いたら作ると話していた。
桜さんから、すぐにメールの返事が帰ってくる。
一言だけだ”任せる”だ。多分、未来さんや美和さんから話がいっているのだろう。
リビングに戻ると、ユウキがコントローラを持ったまま、夢の世界に旅立っていた。
今、ここで起こすと、間違いなくゲームに付き合わさせられる。なぜか置いてある、ユウキ用の毛布をかけてしばらく寝かしておくことにする。コントローラは、珍しく自分の物を使っていた。ゲームの状況を確認して、スリープ状態にしておく。
今度は、平文で、桜さんに、”ユウキを預かった。返してほしくば”まで書いて、一言を削除する。預かったまでにしておくことにした。返してほしくば、100万用意しろとかいうと、”100万を用意できない。そのままユウキをもらってくれ”とか、返してきそうだ。それも、俺だけではなく、ユウキやオヤジやオフクロにもCCを入れてだ。あの人ならやりかねない。
桜さんからすぐに返事が来た。
美和さんも、今日は帰ってくるのが遅くなるそうで、そのままユウキを預かってほしいと言われた。そんな事だろうと思っていたので、準備だけはしておいた。
寝ているユウキを起こすのも面倒なことになりそうなので、そのまま寝かしておくことにする。
どうせ、起きたら俺の部屋にたずねてくるだろう。
作業部屋に戻ることにする。
今回の件を、整理してみる。
情報が少ないので、殆どが推測になってしまうが、ユウキが塾に行くことで、情報が入ってくるだろう。未来さんからも、塾の情報が届くことになっている。情報分析は苦手なんだけどな・・・。
マインドマップのアプリを起動して、考えをまとめていく。
後から情報がわかる場合には、文章でまとめておくよりも、思考の過程がわかるようにかける、マインドマップの方が都合がいい。
プログラムを教えるよりも、こういう考え方を教えたほうがいいと思っている。プログラムなんて、結局は人間がやりたいと思っている事を、端末にわかる言語で記載する翻訳作業なので、速度さえ問わなければ、誰でもできると思っている。学校でも、プログラム言語を教えて欲しいとは言われることがあるが、Java でかけるようになりたいとか、PHP を教えて欲しいとか、いろいろ言われるが、言語にも一長一短ある。やりたいことがまとまっていないのに、言語を覚えても殆ど意味がない。
英語と同じで、意味もなく記述方法を覚えても、結局は応用ができない知識が貯まるだけで、その中から興味も持った、1%程度が本格的にプログラムを覚えるのだろうが、遠回りになるのは目に見えている。研究者になるのならいいのかもしれないが、現場で必要とされる。人間になれるとは思えない。
「あぁ・・・ユウキの方は?」
娘さんの名前は、早苗と言うらしい。商業に通っている事は間違いないようだ。母親が言っている事と相違がなかった。
答え合わせをするように、確認をしていくが、”いじめ”の部分以外では違いはなさそうだ。問題になりそうな事は
「ユウキ。早苗さんは、塾は辞めてもいいと言っていたのだな?」
どこからか確保してき新しいケーキにフォークを刺しながら
「うん。今の塾も、受験対策だけしかやってくれないから、自分が”やりたい”事じゃないって話していたよ」
「そうか・・・」
「タクミ。何が有ったの?」
「え?あぁなんでもない。未来さん」
「そうね。母親に言っている事と違うのは、その点だけみたいね」
ユウキが、なにか聞きたそうにしていたがスルーしておく、話したら、絶対に首を突っ込むだろう。ユウキは、ワイルドカードとして手元に置いて置かなければならない。
「そうだ、タクミ。学校での事を教えてもらってもいい?」
ユウキも一緒だったが、噂にもなっているようだし、別に問題ない・・・か。
未来さんに、学校で発生した”いじめ”と対応方法を説明した。
「タクミ。そんな事をしたの?」
「あぁ”俺”がやったわけじゃない。提案しただけだ」
「・・・それで、克己さんは?」
「オヤジ?さぁ何も言ってこなかったらか、やり方は間違っていないと思うよ」
「そう・・・その時の資料とかある?」
未来さんに資料を電子データで渡した。
今日は、未来さんも内容を確認したいということだったので、解散することになった。
ユウキが、美和さんに電話をかけるが、今日は遅くなるということだ。桜さんは、今日も泊まり込みの様だ。
俺の両親も、今日は二人とも遅くなるという返事が帰ってきている。
「タクミ。どうするの?」
「そうだな。ユウキがこの前行きたいって言っていた、オムライスが美味しい店にでも行くか?」
「え?だって、あそこ歩いて行ける距離じゃないよ?」
「あぁそれは多分大丈夫。確認するから、待っていろ」
スマホを取り出して、先日からメッセージが、煩く届いている人物にメッセージを出す。
数分後、既読マークが着くと同時くらいに、スマホに着信がある
『キミ。急だね』
「そりゃぁ面倒な人にお願いする時の鉄則ですからね」
『面倒って誰のことだね?』
「今、俺と話している人ですよ。お願いってよりも、副会長にもメリットがある話ですが乗りませんか?」
『それは、この前の件での貸しを潰してもいいくらいのお願いなのか?』
「そうですね。副会長への貸しならまだ沢山作れそうですからね」
『キミは・・・。まぁいいそれで?』
「会長を誘って、俺とユウキを乗せて、ドライブしませんか?最終目的地は、オムライスが美味しい店で、好きな物をおごりますよ?」
『・・・何を考えているのかわからないが、その話乗ろう。美優もキミの誘いなら断れないだろう』
「頼みますよ。運転は、副会長が?」
『美優もできるのだが、僕の方が、安全だからね』
「わかりました。今いる場所は、後で、GPSデータを送ります。1時間後くらいで大丈夫ですか?」
『市内だろう?大丈夫だ』
「よろしくお願いします」
通話を終えると、ユウキが不思議そうな顔をしていた。
「タクミ。今の、梓先輩だよね?」
「あぁそうだ」
「梓先輩が迎えに来る?」
「あぁ」
「なんで?」
生徒会長と副会長が、車の免許を取得した。
工業高校という性質上、高校卒業と同時に就職も珍しくない。そのために、3年生は免許取得が奨励されている。そして、卒業と同時に運転することが多く有るために、土日や休みのときに、免許取得者は、運転が推奨されている。その時の条件が、”運転免許保持者”が同乗していることとなっている。
そんな些事はどうでも良くて、二人を呼び出したのは、足にしたかったこともあるが、二人が、高田さんが通っている塾に通っているからだ。
待ち合わせ場所で、話をしていると、真っ赤な Audi が目の前で止まった。
窓が空いて、会長が俺を手招きした。
「タクミくん。今、逃げようとしたでしょ?」
「なんのことですか?そんな逃げようなんて思っていませんよ。でも、会長が、副会長から逃げようとしていたのがわかりました」
「そう、理解してくれたようで嬉しいわ」
もう呼んでしまったからには諦めるしか無い。
車に乗り込む。幸いなことに、運転は普通だった。
目的地のオムライスが美味しい店に着いた。
予約を入れていたので、そのまま席に案内される。
「キミ。それで、僕たちに”お願い”は、車を出すことでは無いのだろう?」
「それも有ったのですが・・・食事してからにしましょう。もし、話がまずいようなら、カラオケにでも行きましょう」
「わかった。美優もいいよな?」「いいわよ。説明してくれるならね」
会長と副会長に、”俺とユウキが塾に通うことになりそうで、先輩方が行っている塾に付いて教えて欲しい”という事にした。ユウキも何かを悟ったのだろう、今日は静かにしている。
デザートを食べたところで、俺の疑問も解消された。
ユウキが聞いてきた通りに、”受験”に特化した塾のようだ。先輩方は、目立つ方なので、もちろん塾でも目立っているのだろう。それを差し引いて考えれば、塾の中で”いじめ”が行われるほどに人間関係が構築できるとは思えない。
”いじめ”は、構築されたコミュニティの中で発生する物だと思っている。極端な話、100人集めて、100人とも接触がなかったら、”いじめ”は発生しないが、100人の中で、半数が知り合いというコミュニティが形成された状態では、”いじめ”が発生すると思っている。
話を聞いた限りでは、学校単位や地域単位でまとまっている程度の状況で、”誰”とわからない状況での”いじめ”が発生するだろうか?
「タクミくん。こんな話でいいの?」
「えぇ参考になりました」
さてどうするか?
コミュ力がある。ユウキに塾に行ってもらうのが一番なんだが・・・。
それから、ユウキを交えた他愛もない話をして、副会長に家まで送ってもらった。
「ねぇタクミ。さっきのって、ミクさんのところで聞いた、早苗ちゃんの行っている塾の話だよね?」
「そうだけどなんで?」
玄関の鍵を空けながら答えた。
どうやら、ユウキはしばらく、こっちの家に居ることにしたようだ。
リビングに入って、定位置になっている場所に腰を下ろす。
「タクミ。僕にできることない?」
「急になんだよ?」
「そうだ!僕も、塾に行こうかな?」
ユウキに、早苗さんと一緒に居てもらえば何らかのアクションがあるかもしれない。でも、ユウキが、つらい思いをするのは少しじゃなく嫌な気分だ。
それに、手口というか、方法がわからない。
先輩たちの話を聞く限り、塾はそれほど大きくない。同じ学校からの生徒も5~6人と言ったところらしい。市内から集まっていると考えると、7~8高に限られると考えていいだろうが、それでもコミュニティを成形するには。一つの集まりが小さく、数が多い。
情報が不足しすぎている。やはり、塾に行くしか・・・無いのだろうな。俺が行くのは得策ではない。最初は、副会長に会長の写真をネタに、動いてもらおうかと思っていたが、思っていた以上に上下のつながりはなさそうだ。
「ユウキが塾に?」
「タクミ。さすがに、僕でも気がつくよ。早苗ちゃんの話が有って、同じ塾に行っている先輩の話を聞いたら・・・」
「そうか・・・でも、お前、部活とかは大丈夫なのか?」
「え?あっ大丈夫だと思うよ。先輩の話では、遅い時間でも大丈夫みたいだからね」
「そうだな。わかった。俺から、桜さんと美和さんに話をする」
「え?いいよ。大丈夫。塾に行くだけだよ」
「・・・ユウキ。お前・・・。以前、塾・・・いや、習字に行った時のこととか忘れたのか?」
「ん?」
可愛く首をかしげる。ユウキの頭を軽く小突いておく。
ユウキの両親に、事情説明のメールを出すことにする。未来さんにも、大まかな方針の相談をしなければならないが、大丈夫だろう。
「そうだね。タクミ。お願いしていい?タクミはどうするの?」
「俺は行かないよ」
「そう・・・わかった!」
ユウキは、しばらくゲームで遊ぶことにしたようだ。
俺は、部屋に戻って、桜さんと美和さんに出すメールと、未来さんへの説明メールを出すことにした。
他愛もないメールなら、平文で送るが、オヤジから、業務に関わることや、秘密の内容の時には、暗号化しろと言われている。
メールの本文を書いて、PGP で暗号化を行う。桜さんはともかく、美和さんにはいつも文句を言われる。曰く、”面倒”だと、俺に言われも困る。そう言えば、美和さんから無茶振りをされていたのを思い出した。暗号化されたメールを復号するときに、生体認証で鍵を選んで復号できないかと言われた。
端末に実装されている生体認証に限らせてもらうが、できないことは無いだろう。そう答えた。”作れ”と言われてしまった。
美和さんの無茶振りは、オヤジにも振っているから大丈夫だろう。気が向いたら作ると話していた。
桜さんから、すぐにメールの返事が帰ってくる。
一言だけだ”任せる”だ。多分、未来さんや美和さんから話がいっているのだろう。
リビングに戻ると、ユウキがコントローラを持ったまま、夢の世界に旅立っていた。
今、ここで起こすと、間違いなくゲームに付き合わさせられる。なぜか置いてある、ユウキ用の毛布をかけてしばらく寝かしておくことにする。コントローラは、珍しく自分の物を使っていた。ゲームの状況を確認して、スリープ状態にしておく。
今度は、平文で、桜さんに、”ユウキを預かった。返してほしくば”まで書いて、一言を削除する。預かったまでにしておくことにした。返してほしくば、100万用意しろとかいうと、”100万を用意できない。そのままユウキをもらってくれ”とか、返してきそうだ。それも、俺だけではなく、ユウキやオヤジやオフクロにもCCを入れてだ。あの人ならやりかねない。
桜さんからすぐに返事が来た。
美和さんも、今日は帰ってくるのが遅くなるそうで、そのままユウキを預かってほしいと言われた。そんな事だろうと思っていたので、準備だけはしておいた。
寝ているユウキを起こすのも面倒なことになりそうなので、そのまま寝かしておくことにする。
どうせ、起きたら俺の部屋にたずねてくるだろう。
作業部屋に戻ることにする。
今回の件を、整理してみる。
情報が少ないので、殆どが推測になってしまうが、ユウキが塾に行くことで、情報が入ってくるだろう。未来さんからも、塾の情報が届くことになっている。情報分析は苦手なんだけどな・・・。
マインドマップのアプリを起動して、考えをまとめていく。
後から情報がわかる場合には、文章でまとめておくよりも、思考の過程がわかるようにかける、マインドマップの方が都合がいい。
プログラムを教えるよりも、こういう考え方を教えたほうがいいと思っている。プログラムなんて、結局は人間がやりたいと思っている事を、端末にわかる言語で記載する翻訳作業なので、速度さえ問わなければ、誰でもできると思っている。学校でも、プログラム言語を教えて欲しいとは言われることがあるが、Java でかけるようになりたいとか、PHP を教えて欲しいとか、いろいろ言われるが、言語にも一長一短ある。やりたいことがまとまっていないのに、言語を覚えても殆ど意味がない。
英語と同じで、意味もなく記述方法を覚えても、結局は応用ができない知識が貯まるだけで、その中から興味も持った、1%程度が本格的にプログラムを覚えるのだろうが、遠回りになるのは目に見えている。研究者になるのならいいのかもしれないが、現場で必要とされる。人間になれるとは思えない。