母と結婚してください。

 詩織の残した婚姻届は、リコを僕の元に導いてくれた。リコに今の会社へ入社するきっかけを作り、僕に近づく原動力でもあった。

 リコへの作用ばかりではない。現実とかけ離れ過ぎってしまっていたリコの話だけで、僕は信じることが出来ただろうか。自信を持って首を縦に振ることはできない。結局は怖くなって日記だって読んでいない。詩織の運命を信じ、詩織の気持ちに納得出来たのは、間違いなくあの婚姻届があったからだ。

 長年持ち続けていた詩織への懺悔を、わだかまりを、あんな用紙一枚が一瞬にして終焉させてくれた。そればかりか、押し留めていたリコへの気持ちでさえ、解放してくれたと言っても過言ではない。