母と結婚してください。

 結婚直前のこの時期に。婚約者は遥か海の向こう側にいる。相談しようものなら、事件のことも話さなくてはならなくなる。まさに八方塞がりのこの状況に、どれだけ詩織は悩んだことだろう。

「結局、母は……私を選んだんです。どこの誰の子かも分からない私を。でも、それが女の本能なんです。今、お腹の中には子供がいる。最初で最後の子供になるのは目に見えています。例え父親は誰かも分からなくても、母親は間違いなく自分自身なんです。だったら、産みたいと思うのは女の性です。それが女なんだと理解して貰うしかありません」

 姿を消した理由が分かってしまった。詩織は僕の妻になることよりも、母になることを選んだ。まさに命がけの出産に一人っきりで挑んだのだ。