母と結婚してください。

「はい……それも卵巣に」

 抗がん剤治療、放射線治療、それらを行うと妊娠できる可能性は著しく落ちることは知られている。つまりは自分が生きる為には、将来の子供を諦めることになる。

 子供を諦めたとして、自分の命を優先したとして――だからと言って、もちろん手術さえすれば万事解決という話でもない。詩織の癌は、気づいた時には既にステージⅡ期に入ってしまっていた。ステージⅡ期での5年後の生存率はおおよそ70%だと言う。その一方で、一度、治癒しても約半数の人が数年以内に再発するとも言われているのだそうだ。

 全てをかなぐり捨てて手術に踏み切ったとしても、詩織の将来は何にも約束なんてされていなかったのだ。