イリュージョンのように、ある日突然に、詩織を失ったことに対して、僕は気持ちの整理がつかなかった。廃人のような日々を過ごした結果、約束は何かの聞き間違い、もしくは、断るに断り切れなかっただけ、そんな結論に達していた。

 彼女の気持ちを汲み取るだけの常識さえ兼ね備えられなかったのだと、僕は自分自身にダメ男の烙印を押した。それから誰かと付き合うことはしなくなった。そんな資格も価値もないんだと思っていた。

 リコとの距離をこれ以上縮められないのも、きっとそう。相手にのめり込むのが怖い。裏切られるのが怖い。目の前から消えられた時の喪失感と絶望感を――もう二度と味わいたくない。