「知ってるよね? 大切な人だもんね」

 僕は言葉を失った。飯山詩織は、僕がかつて付き合っていた相手の名前だ。結婚だって考えていた。そういう約束だってしていた。いや、そのつもりだった。

「何故……その名前を」

 僕が二十歳の時、六ヶ月に及ぶ海外出張があり、日本に戻ってきていた時には、彼女は姿を消していたのだ。連絡だって断たれた。彼女の両親は既に亡くなっていたものだから、それ以上、彼女のことを知る術を僕は失ってしまった。