そんなある土曜日の夜のことだった。食事の後、僕はタクシーでリコをいつもどおりアパートまで送っていった。いつもだったらここで別れる。ばいばい。またね。タクシーを降りて、中に座っている僕の方を見て、顔を少し傾げてリコはいつも笑う。

 窓の枠に納まるように、手を小さく振るのだ。ばいばい。またね。ドアを閉めても、まだ手を振っている。それが堪らなく可愛いと思ってしまう。タクシーが動き出すまで、彼女はその場から動かない。まっすぐにタクシーを見つける彼女の顔を見て、僕は健気だなと思う。

 でも、その日は違った。リコは不意に僕の手を握った。僕は引っ張られる形になる。