「あっそ。もういい」
ほっぺを膨らませ、リコは差し出したCDを乱暴に奪い取り、すぐさま鞄にしまってしまった。それっきり、そのアーティストのCDは借りていない。当然、リコからと勧められることもなかった。
そんになリコとの齟齬《そご》は何も音楽ばかりではない。映画だってそう。映画館に行っても、いつも好みがかみ合わない。僕が見たい映画はリコは見たくないといい、リコが見たい映画に、僕は魅力を感じることができないでいる。それでも最後の最後は、リコに引っ張られて、彼女オススメの映画を見ることになる。それがいつもの僕たちのパターンだった。