──暫く歩いて西の対の入り口付近まで、やって来た時である。

 作務衣の男性は、不意に足を止めるや、クルリと此方を振り向いて言った。

「ご不浄は、あちら。お荷物は、私が薙さまのお部屋までお持ち致します。」

「はぁ…ご親切に。あの、ありがとうございます。」

 上目遣いのボクに、男性はニコリと微笑む。

「どうかその様に畏まらずに。私は、薙さまの御世話係にございます。どうか遠慮無く、何なりと御申し付け下さいませ。」

「…御世話係…!?」

「はい。御挨拶に伺いましたが…お部屋に薙さまが居られませんでしたので、お探ししておりました。申し遅れまして誠に失礼致しました。私、薙さまの身辺の御世話をさせて頂きます、氷見秋彦と申します。」

「ひみ…さん?」

「どうぞ『氷見』と御呼び下さいませ。私は、薙さまの《護法》でもありますので、今後何処かへ御出掛けの際は、私も御一緒させて頂く事になります。」

「ごほうって、何?」

「そうですね…。端的に申し上げれば、薙さま専任のボディガードと云った處ろでしょうか。」

「…ボ…ッ」

 ボディガード───!
当主に成れば、もれなくそんなものまで付いてくるのか!? なんて非現実的な…!!

 明らかに退いてしまったボクを見て、氷見は困った様に首を傾げて笑った。

「薙さまのご身辺は危険も多うございますので…今後は決して、お一人で御出掛けになさらない様にお願い致します。」

 危険…危険とは?
そんな風にサラリと言われたら却って怖い。背筋に悪感が走る。

 氷見は、びくつくボクを解す様に優しく笑い掛けると、不意に話題を変えた。

「間も無くお食事で御座います。準備が調い次第、私がお迎えに上がります。それまではどうか、お部屋の方でお寛ぎ下さいませ。」

 それだけを言い残すと、護法でボディーガードの氷見秋彦は、軽く一礼して去った。

ボクの荷物を持って──