結局、言い出す切っ掛けが無いまま別れたけれど…やはり、気になるものは気になる。何としても、解明せずにはいられない。

後でコッソリ、おっちゃんに訊いてみよう。
…答えてくれるかな?

 そんな事があった所為で、ボクは、これ以上無いと言う程、疲労困憊していた。

体がダルくて、動かす気にもなれない。
こうして、ぼんやり窓の外を眺めているのが精一杯だ。

 今日は、本当に忙しかった…。
難しい事も、面倒な事も、煩わしい事も散々聞かされた。

もう、沢山だ。
何も考えたくない。

「帰りたいな……」

 ホロリと零れ出た言葉に、自分でも驚く。

帰りたい…?
そうか。ボクは帰りたいのか!

 自覚した矢先。
ふと、一慶の言葉が脳裏を過った。

『逃げたかったら逃げればいい』

 そうだ。
逃げるなら、今をおいて他に無い──!

首座なんて真っ平だ。
そんなものには成りたくもないし、勿論、結婚する気も無い。

それに。『逃げる』という選択肢も有りだと、一慶も言っていた。

幸い、辺りに人影も無し。
えぇい──逃げちゃえ!

 腹を決めた途端、疲れも吹き飛んだ。
ボクは自分の荷物を持って、そっと部屋を抜け出す。