「…孝ちゃんはね。アンタの存在を、未だ秘密にしておきたいんですって。ついこの前まで、アタシ達にも内緒にしていたのよ?なのに『会えば判る』とだけ言われて、一慶と二人で迎えに行ったの。ところが待ち合わせ場所に、アンタは来なかった。街に紛れた気配を、必死に探ったわ。見付けられるかどうか不安だったけれど…でも、アンタの姿を見た途端、確信した。何故かそうだと判ったの、不思議ね。」

 可愛らしく、苺は笑った。
ピンク色の頬が輝いている。

「恐らく…あれは、孝ちゃんから私達への、最後の宿題だったのね。」

「宿題?」

「そう。魂魄を見分けるテストよ。六星行者の基本技でね。これが出来なきゃ、六星を名乗れないわ。四天なら、尚更よ。仕える当主の気配も観《かん》じ分けられないようでは、使い物にならない。」

 成程…そんな事も試されるのか。
行者稼業は想像以上に大変そうだ。
ボクには到底、務まりそうにない。

 素直に感心していると、不意に苺が話題を変えた。

「さあ、今夜はこれを着て!」

 そう言って、着物と袴一式を差し出す。

「え……これ?」

 手渡されたのは、純白の長着と、淡い藤色の袴だった。長着の左肩と右胸には、向き合う鳳凰の図柄が、丁寧に刺繍されている。霞の様な紗を合わせれば、その下から一対の鳳凰が、ほんのり浮き出て…それがまた、何とも云えず美しい。

 袴の方は、裾に銀糸で、細かい波模様が描かれていた。何やら…演歌歌手の衣装の様だけれども。これを、ボクが着るのだろうか?

「いいでしょう?アタシの自信作よ。袴はリメイクしたの。この刺繍、本当に苦労したんだから!」

──苺は、自慢気に云うけれど、豪華過ぎて気が退ける。…果たして、ボクに似合うのか?

「ほら、早く早く!」

 急かされて、結局は着せされてしまった。

けれど…何故だろう?
こうして実際、身に着けてみると、あまり派手さを感じない。

鳳凰の柄も、ちっとも大袈裟に見えないし、何よりボクに合っている…のではないかと思う。

 苺に言わせれば──
ボクは、顔全体に対して目の割合が大きいから、コレくらい奇抜な図柄でも、あまり派手にならないのだそうだ。

 …そういうものなのだろうか?

良く解らないが、優れた色彩感覚や、物の善し悪しを見抜く目は流石だ。デザイナー志望と、自ら豪語するだけの事はある。