あれからボクは随分長い時間、苺の趣味に付き合わされた。

屋敷中から、衣装という衣装を引っ張り出し来て、ボクの部屋着を見立ててくれた苺。その拘りは凄まじく、彼女(?)自身が納得するまで、何度も何度も着替えさせられた。

『イメージが違う』とか『髪型と合わない』とか『肌の色が悪く見える』とか…今まで、特に気にしていなかった事ばかりを、次々と指摘され困惑する。

こうなるともう、ボクなんかが口を挟む余地など、何処にも無い。

まるで着せ替え人形の様に、その場に突っ立って、苺の為すがまま…されるがままにしているしかなかった。

 彼女(仮)は、とても楽しそうだったけれど、ボクはもうヘトヘトである。

でも、逆らうと怖いし──
ここは黙って云う通りにしていた方が得策だろうと思い、拷問に耐えた。

 それにしても。

たかが普段着に、ここまで吟味を重ねた事など、未だ嘗てない。お陰で、空っぽだったクローゼットは服でいっぱいになったけれど…。それが喜ばしい事なのかどうか、ボクには良く分からなかった。

 苺は、和服も何着か選んでくれた。
どれも皆、手の込んだものばかりで、ボクの様な山出しの田舎者には、正直、気後れがする。だが…

「この三着は、アンタの為に誂(アツラ)えたのよ。」

 そう言って、苺は快活に笑った。

「誂えた──わざわざ?」
「そうよ。」

 嘘だろう?
こんなに豪華な和服を、ボクの為に──??

「小紋と袴は仕立て直したものだけど、長着と振袖は新作なの。アタシがデザインしたのよ。三軒の仕立屋に発注して、大急ぎで縫って貰ったわ。アンタの顔、知らなかったし──男の子か女の子かも分からなかったから、とにかくもう色んなタイプを想定して、様々なパターンを考えてみたわ。だって、どんな子が来るのか、孝ちゃん、教えてくれないんだもん!苦労したのよ?」

 …そうだったのか。
おっちゃんも、せめてボクの性別くらいは、教えてあげれば良かったのに──。

お陰で一慶には、初っぱなから、男だと間違われてしまったではないか。

 …あ…思い出したら、また腹が立ってきた。