「ねぇ、もう良いんじゃない?そんなに追い詰めても、どうせ今日中に結論なんか出ないわよ。ね?」

 困惑の極みにあったボクを見て、苺が、パッと立ち上がった。

「まだ三日あるわ。事情は充分に理解出来ただろうし、後はアンタの気持ちの問題よ。あたしらは最初から、自分の人生なんて選べないんだから。」

「ボクに全てを丸投げするのか!?」
「そうよ。」

 白いワンピースを閃かせて、ボクの前に座る苺。可愛いらしい顔を、ぐいと近付けて来て言う。

「…いいこと、薙。勘違いしないで。あたし達は、アンタの『駒』よ。只の親族じゃあないし、勿論、お友達でもない。その代わり、アンタの命令なら、何でも聞くわ。アンタが逃げたいと言うのなら全力で逃がすし、当主を引き受けるなら全力で従う。それが定めなの。アンタが気に病む必要はないわ。それが四天なんだから。」

「……苺。」

「一慶が言ったでしょ?アンタはアンタの意志で、自分の行く道を決めていいの。孝ちゃんは立場上、一族に不利な事が言えないだけで、気持ちは同じよ。解るわね?」

「…う…ん…」

 曖昧な返事をすると、苺は、スンと顎を聳(ソビ)やかして、質問を繰り返した。

「解るわよね?」
「はい。解り…ます…」

その迫力に飲まれて、つい返事をしてしまう。
可愛いくせに、凄むと怖い。
大きな瞳に、怯えるボクの顔が映り込んでいる。

 
 それが余りにも情けなくて、気まずく目を逸らしながら答えた。

「…少し考えさせて。」
「勿論よ。ちゃんと考えて、答えを出して。」
「解った。」

渋々の体で頷けば、苺は、フワリと笑ってボクの頭を撫でた。

「いい子ね、薙。この屋敷にいる間は、お姉さまが守ってあげるから、心配しなくていいのよ?解らない事は、何でも訊きなさい。」

「じゃあ、苺。ひとつ訊いていい?」
「なに?」
「苺って…ホントは男なの?」
「───」

 ──いけない。
地雷を踏んでしまった様だ。
苺の剣呑な眼差しが、心臓に突き刺さる。
凍りついたボクに、苺は低い声で言った。

「…ノーコメントよ。絶対教えてやんない。」