「これで解っただろう?」

突然、一慶が口を開いた。

「お前が《神子》と承認されたら、もう従うしかない。逃げるなら今だ。」

逃げる?
逃げて…何処へ行けばいいんだ?

相続を放棄したからと言って、ボクが《神子》という事には変わりない。

こうして真実を知ってしまったからには、『何も知らなかった』頃の様には暮らせないだろう。自らの無責任を悔いて…ボクは一生、負い目を感じながら生きてゆくのだろうか──?

 そこへ、祐介が畳み掛ける。

「そうだね。それが嫌なら、結婚だ。一族の外に降嫁する際、女性は、その術と行力の全てを還上する掟になっている。一座の柵みとスッキリ縁を切るなら、最も合理的な方法だよ。」

…合理的?
結婚は、合理性でするもんじゃないと思うのだが。

 ボクと同意見だったのか、一慶は、不快そうに祐介を一瞥して言った。

「もし、お前が、自らの意志で当主を引き受けるなら、その時は、俺らも覚悟を決めるさ。」

「どうして、一慶達まで?」
「俺達が、次代の《四天》だからだ。」
「──え?」

「キミが当主を引き受けるなら、僕らが一命を遂してキミを護る。そういう事だよ、薙。」

自分の命を懸ける相手…それが、ボク?

「だから…腹を決めろって?」

 答えは無かった。
否、その沈黙こそが答えだった。

ボク次第──なのか?
ボクの選択が彼等の運命を…今後の人生を左右する、と??

重過ぎる選択だ。
直ぐには答えが出せない。
どうすればいいのだろう?

一体どうすれば……?