「まぁ…そういうこった。」
何処か大儀そうに紫煙を燻らせながら、おっちゃんが言う。
「驚いただろう?いきなり神子なんて言われても、そりゃ困るわなぁ…。神子さまのお力が如何程のものかなんて、俺だって良くは知らねぇや。」
「おっちゃんにも知らない事があるの?」
ボクが訊くと、おっちゃんは薄く自嘲した。
「あぁ、あるある。知らねぇ事だらけだよ。なんせ俺ぁ、首座様じゃあねぇからなぁ。代理なんてもんは、所詮、張り子の虎だ。首座から首座へ伝えられる秘法の類は、全て修法書(スホウショ)って巻物に、特殊な密印を仕込んで固く封じてある。俺なんかにゃ到底手が出せねぇ。何が書かれてあるのか、詳しい内容までは知らねぇな。」
いつも通り豪放に振る舞っているけれど、おっちゃんは、何となく寂しそうに見えた。そうして、ふと、こんな事を呟く。
「…俺に兄貴の代わりなんて出来ねぇ。直系とは云え、跡継ぎは長子と、昔から定められている。俺は兄貴の影武者だ。それで充分だったんだがなぁ…何だってまた、首座代理なんかやらされているんだか。」
小さく笑って、おっちゃんが頭を掻く。
その顔には明らかに絶望の色が見えた。
こんなに大きな体なのに、何だか消えてしまいそうで悲しい。
首座にしか使えない技。
首座にしか伝えられない理(コトワリ)──。
喩え兄弟であっても、決して越えられぬ壁が、そこにはある。おっちゃんと親父の間を、厳然と隔てている。
多分…ボクらの気持ちは同じだ。
親父に対して、おっちゃんと同じ『壁』の様なものを、ボクもまた幼い頃から感じていた。
家族なのに分かち合えない重い荷物があると…悲しく思う事があった。
その理由が、今になって解るなんて…
運命は、なんて無慈悲なんだろう。
何処か大儀そうに紫煙を燻らせながら、おっちゃんが言う。
「驚いただろう?いきなり神子なんて言われても、そりゃ困るわなぁ…。神子さまのお力が如何程のものかなんて、俺だって良くは知らねぇや。」
「おっちゃんにも知らない事があるの?」
ボクが訊くと、おっちゃんは薄く自嘲した。
「あぁ、あるある。知らねぇ事だらけだよ。なんせ俺ぁ、首座様じゃあねぇからなぁ。代理なんてもんは、所詮、張り子の虎だ。首座から首座へ伝えられる秘法の類は、全て修法書(スホウショ)って巻物に、特殊な密印を仕込んで固く封じてある。俺なんかにゃ到底手が出せねぇ。何が書かれてあるのか、詳しい内容までは知らねぇな。」
いつも通り豪放に振る舞っているけれど、おっちゃんは、何となく寂しそうに見えた。そうして、ふと、こんな事を呟く。
「…俺に兄貴の代わりなんて出来ねぇ。直系とは云え、跡継ぎは長子と、昔から定められている。俺は兄貴の影武者だ。それで充分だったんだがなぁ…何だってまた、首座代理なんかやらされているんだか。」
小さく笑って、おっちゃんが頭を掻く。
その顔には明らかに絶望の色が見えた。
こんなに大きな体なのに、何だか消えてしまいそうで悲しい。
首座にしか使えない技。
首座にしか伝えられない理(コトワリ)──。
喩え兄弟であっても、決して越えられぬ壁が、そこにはある。おっちゃんと親父の間を、厳然と隔てている。
多分…ボクらの気持ちは同じだ。
親父に対して、おっちゃんと同じ『壁』の様なものを、ボクもまた幼い頃から感じていた。
家族なのに分かち合えない重い荷物があると…悲しく思う事があった。
その理由が、今になって解るなんて…
運命は、なんて無慈悲なんだろう。