苺は、細い顎に拳を当てて言った。

「さぁね。いつからなのか、それはアタシ達にも分からない。でも多分、伸ちゃんが亡くなってからだと思うわよ?伸ちゃんは生前、目眩ましの術を掛けて、アンタを、一座の目から守っていたから。」

 …親父が、守って?

ボクが黙り込んだのを見て、おっちゃんが重い口を開いた。

「実はな、薙。当主の継承について…俺としては、お前の気持ちを尊重するつもりでいたんだよ。お前が継ぎたくないなら、別にそれで構わない──他に生きるべき道を見つけて幸せになってくれたら、それで良いと思っていた。それが、兄貴の遺志でもあったからな。だが…あれを見られたお陰で、状況が変わっちまったんだ。」

 『状況が変わった』という言葉を聞いて、ボクの背に緊張が走った。

悪い予感がする。
自分ではどうにもならない、大きくて強い流れに巻き込まれて行く様な…そんな感覚だ。

巻かれた途端、木の葉の様に翻弄されて…きっともう、元の場所には戻れない。

 すると。死刑宣告でも下すかの様に、おっちゃんが言った。

「お前がしていた事は、非常に難易度の高い秘術なんだ。祐介が言った様に…無意識レベルで、そんな強力な術を使える行者は、極めて稀だ。それはつまり、天性の首座の資質を持つという確固たる『証』になる。金の一族にはな。時折、そういう天才が現れるんだ。だから血筋を重んじる。」

「まさか…それがボクだと?」

 おっちゃんは頷いた。

「その可能性が極めて高い…と、総代衆が主張している。」

「嘘──!」
「本当だよ。」

おっちゃんの説明を、祐介が補足する。

「そういう生まれつきの行者を、僕らは《神子(ミコ)》と呼んでいる。首座になる為に生まれた『神の使い』と言う意味だ。」

「神…」

 ふつり、と。
ボクの理性の糸が斬れた。
手が肩が足が、ワナワナと震えてくる。
落ち着こうとするのに止められない。

「首座になる為に生まれた…ボクが!?」