それは…身に覚えのある話だった。
親父の骨を手に入れて、間も無く──ボクは、階段から転げ堕ちて足を痛めてしまった。

 酷い捻挫だった。
アッと言う間に腫れ上がり、その日の内に歩けなくなった。

その時。ボクは…ふと思い付いて、親父の骨の入った袋を取り出した。

 どうしてそんな事をしようと思ったのか、自分でも良く解らない。だが…何故か、その『骨』を患部に当ててみようと思い、無意識にそうしていた。

 目を閉じて、深く呼吸する。
それから、親父の姿を思い浮かべて、一心に治癒を念じる。

流行りのおまじないを試す様な─…そんな軽い気持ちだった、なのに。気が付けば、痣や腫れが跡形も無く消えていた。

まるで親父自身が、ボクの怪我を癒してくれたかの様に…綺麗さっぱり、痛み諸とも消え失せたのだ。

 親父の骨には、何か特別な力がある。
そう気付いたボクは、それを使って、屡々、病気や怪我を癒していた。

自分以外の人に──そう。
例えば、ボクの母さんに。
病弱な母さんの体を癒す為に、ボクは親父の骨の力を使ったのだ。

 あれを、一部始終見られていた…?
一体、誰が──どこから、どうやって?

 …背筋に悪寒が走った。我知らず肌が粟立つ。

「し…式…神…って、なに?」

震える声で尋ねると、見かねた様子で、苺が話を引き継いだ。

「行者に従う眷属(ケンゾク)…簡単に言うと、使い魔みたいなものよ。神流(カンナガ)れした御神霊なんかを、行者が勧請(カンジョウ)して使役するの。陰陽道では、それを《式神》と呼ぶのだけれど…要は、眷属も式神もほとんど同じものよ。諜報活動やら潜入行動なんかをさせるのには、便利な連中だわ。」

諜報活動?つまり、スパイ??
ボクを見張っていたのは、神様…なのか?

「そうよ。どうやらアンタには、ずっと以前から式が憑いていたみたいね。」

…………。
…………。

それは、とても衝撃的な事実だった。
ボクの行動は、何者かによって、常に見張られていたのだ。

一体いつから──?