「それだけじゃないわ。」

 突然、苺が口を開いた。
衝撃的な話に動揺していて、うっかり『彼女』の存在を忘れていた。

「失礼ね!居るわよ、さっきから!!」

(ゴメン)と心の中で詫びれば、苺は呆れた様に溜め息を吐いて言う。

「確かに…アンタを本家に招いたのは、首座を継がせる為よ。そしてもう一つ、嫡子と呼ぶに相応しいかどうかを品定めする為なの。伸ちゃんが亡くなった途端、総代衆が、嫡子候補のアンタに強制招集権を行使したのよ。甲本家には、昔からそういう特別なルールがあるの。だから、アンタのお母様も、それを断れなかったの。」

 強制招集権?
品定めするの、ボクを!?

「そうよ。嫡子とは云え、跡継ぎにできない子が、嘗ては何人も在ったの…。白児(ハク)って言ってね。要するに、不具の子よ。白痴だったり…文字通り、アルビノで生まれた子供たちが多かった。彼等は、心身ともに虚弱なことから、出来損ない呼ばわりされて、里子に出されたり──時には、縊(クビ)かれたりしたわ。」

「縊くって──」
「えぇ、首を絞めて殺されたのよ。」
「──!」

 言葉が出なかった。
どうしてそんな、残酷な事を…!?

「さっき、一慶が言ったでしょう?首座が不在だった時期があるって。その理由が、ソレよ。白児に生まれた子は、体も心も極端に弱いの。充分な力を引き継いでいても、当主を任せるには不足とされていたのよ。廃嫡の白児は放逐され、のたれ死ぬしか無かった…。そうして、その代の首座は《火の星》の当主が立ったわ。」

 なんて酷い事を…。
直系の嫡子でも、力の無い子は棄てられるのか?

「…ええ。そうでもしなくては、《金の星》の威厳が保てないと、当時は思っていたようね。」

「威厳──?そんなモノの為に、子供を殺す事も厭(イト)わないなんて!」

 苺は、形の良い眉をキュッと歪めた。

「そうね。人道上、赦されざる事よ。でも曾ては、それが罷り通っていたの。そして、その悪習は、未だに根深く残っているわ。だからこそ《金の星》には、薙が白児じゃないという証明が必要なのよ。その為に、嫡子は総代衆の《審議》を受ける事が義務付けられているの。伸ちゃんも曾て、審議を受けたのよ。」

 …親父も…?

「解った、薙?これが六星よ。アンタの生まれた家はね、こういう歴史の中で、『閉じた血筋』を重んじながら命を繋いで来たの。アンタは、この血を絶やす事など許されない立場にあるわ。」