だけど、一慶は怯まない。
挑戦的に振り返ると、真っ向から祐介を睨め付けた。

「お前が言う様に──歴史上、女の首座が立った記録は山ほどある…だが。同時に、甲本家に首座が不在だった歴史も、無い訳じゃあない。違うか?」

「………。」

 この言葉に、祐介が黙った。
あの──坂井祐介が。

「甲本家の当主が、何らかの理由で首座の継承を放棄した場合…自動的に、次席である《火の星》の当主が首座に着く。そういう取り決めが昔からあるんだ。…そうだよな、親父?」

 いきなり話題を振られたおっちゃんは、渋い顔で黙り込んだ。

 一慶は、尚も言う。

「現首座不在の今。《金の星》は、アンタが代理に立つ事で、どうにか体面を保っている。だがそれは、あくまで『薙』という嫡子候補がいるからだ。その後見人という立場があればこそ、甲本家は今も《総元締め》の一族として、優遇されている。では、もし…薙が何らかの理由で、首座に就けなくなったとしたら?《金の星》は、次席である《火の星》に、首座の位を譲らなきゃならない。気位の高い《金の星》の年寄り共には、それが我慢ならない──そうだろう?」

「………。」

「そういう御家事情を隠したまま、コイツに跡を継がせようってのは、些か卑怯じゃないのか?フェアじゃねぇだろ。」