「言いくるめられンなよ、薙。」

 考え込んでいると、突然、一慶が会話に割って入った。

「継ぎたくねぇなら、それでいい。首座が欲しいってのは、此方の都合だからな。お前は、お前の行きたい道を選べば良い。」

「カズ。何のつもり?」

 祐介が、眉を寄せて一慶を見る。
『口出しをするな』とでも言いたげな表情だ。

「何って…別に?俺は唯、お前の口車に乗せられて、うっかり丸め込まれちまったんじゃあ、コイツが気の毒だと思うから、忠告してやってるだけだよ。」

「厭な言い方をするね。僕は別に、一方的に話を押し付けている訳じゃない。今までの誤解を解いた上で、改めて彼女に相談を持ち掛けているんじゃないか。余計な事を吹き込んで、彼女を惑わせるのはやめてくれないか。」

「その台詞、そっくり返すぜ──祐介。」
「…カズ。」

 二人の間に、再び冷たい火花が散った。
一慶はボクを振り返って言う。

「いいか、薙?自分の将来を決めなきゃならない、こんな大事な場面で、誰かの気持ちや立場なんて考えてやる必要はない。自分の意志を手放すな。懐柔されたら、そこで終わりだ。大切なモノ、全部無くしちまうぞ。」

「大切なモノ?」
「選択肢が二つしかないなんて嘘だ。」
「カズ!」

 窘める様な祐介の声。
冷ややかな一瞥をそちらにくれると、一慶は改めてボクに向き直った。

「騙されるな。まだ選択肢はある。」
「選択肢って?」

ニヤリと不敵な笑みを浮かべる一慶。ボクは、無意識に唾を飲み込んだ。

「最初(ハナ)から関わらなきゃ良いのさ。」
「関わるなって…?」
「相続を放棄するんだ。簡単だろ??」

「カズ!」

 咎める祐介の声が、一段と強く響き渡った。