「変な気を回される度に、却|《かえ》ってあの事件を思い出す。『あれは夢じゃなかったんだ』って、何度も思い知らされる。忘れたいのに、なかなか忘れさせて貰えない。辛いんだよ、もう終わった事なのに、いつまでも忘れられないのは!」

 そう言って、少年当主は、真正面からボクを見詰めた。

「事件を知った後でも、態度が変わらなかったのは、アンタだけだ。それが嬉しかった。」

 思い掛けない言葉だった。

それでは、ボクは──ボクのした事は、間違っていなかったのか?そう信じて、良いのだろうか??

 混乱するボクを見て、ふと瑠威が笑う。

「本気で向き合ってくれる奴が、やっと現れた。薙は、オレの特別だ。だから、従う。オレは、アンタに帰依《きえ》するよ。」

柔らかい眼差し。綻|《ほころ》ぶ口元。
初めて見る…彼の、こんな笑顔は。

 互いの視線が絡み合った、その刹那。

「ありがとう、薙。」

不意に、瑠威の唇がボクの頬に触れた。

 ほんの束の間の出来事だった。