「ねぇ、薙?」

 茫然とするボクの視線を捉えようとして、祐介が僅かに身を乗り出した。

「今からでもいい。真剣に考えてみてくれないかな?キミ自身の将来の事…」

「ボクの…将来?」

「あぁ。伸之さんの、娘を思う気持ちは、僕も充分に理解出来る──けどね。六星行者に於いて、首座は特別な存在なんだ。甲本直系の血を継いだキミには、既に天性の資質が備わっている。その才能と、今までのキミの努力を、生かす事なく終わってしまうのは、勿体無いと思わない?」

才能…?
才能って、何だ??
天性の資質って?

 混乱するボクに、祐介は尚も畳み掛ける。

「それとも、結婚する方を選ぶ?」

 ボクは、ふるふると首を振って答えた。
それだけは嫌だ──絶対に。

「じゃあ、考える余地はある筈だよね?一族の継承だなんて大仰な言い方をされると、如何にも大変そうに思うだろうけれど…決して焦る事はないんだ。首座として必要な修行は、キミのペースで、順次進めて行けばいい。勿論、僕らも全力でキミを支える。何の心配も要らないよ。」

 …ボクは、何も答えられなかった。

祐介は正しい。
冷静に先を見越している。
一座の未来を考えて、全てに於いて穿った発言をしている。

そういう一族なら…やはり、どうあっても首座は必要だ。それぐらい、ボクにだって解る。

祐介が、ボクを説得するのは当前の事…ただ、それだけの事なのだ。