突然の出来事に、茫然自失の瑠威。

あどけなさが残るその横顔を、ボンヤリと眺めながら…ボクは密かに、安堵の溜め息を吐いた。

 もう大丈夫。
瑠威の中の憎しみの炎は消えた。
そう思った途端、激しい疲労感に見舞われる。
…どうしたのだろう…頭がクラクラする。

 無意識に額を押さえた、その時だった。

「とんだサプライズだったな。」

傍らで、呆れた様な呟きが聞こえた。
驚いて振り仰いだ視線の先に、一慶の端正な顔がある。

 いつの間にやって来たのか、彼はボクのすぐ隣に立っていた。目線が合うなり、口角の端を僅かに吊り上げる。

「良くやったな、薙。誰の目にも文句無しの、見事な勝ちっぷりだった。」

「一慶…」

 珍しく手放しで誉められて、ボクは二の句が継げなくなった。照れ臭くて俯くと、大きな手がボクの頭をクシャリと撫でる。そして──

「着てろ。」

 そう言って。
一慶は、自分の上着を、然り気無くボクに着せ掛けた。

ふわり。仄かな温もりが、優しく肩を覆う。
一慶の熱が残る上着は、疲れた心と体にジンワリと滲みた。

 温かい…。
懐に抱かれる様な安心感と、微かなマンダリンの香りが、ボクを癒す。

 見交わす笑顔。
その向こうには、ほんの少し涙ぐんでいる遥の姿があった。

あぁ…ボクには、彼等がいる。
優しく見守ってくれる仲間がある。
こんな何気無い気遣いに、ボクはいつも救われているのだ。

 ホッとした途端、激しい目眩に襲われた。

「お…っと…」

傾ぐ体を、透かさず一慶が支える。

大きな手が素早く背に回され、辛うじて倒れずに済んだが…何やら、こうなる事を予測していた様なタイミングだった。