「百合子は、悪ないんですわ。あれを、右京の後妻に据えたんは儂やよって。」

宗吉翁は、自嘲気味に呟いた。

「百合子は…姉の『楓』に、顔立ちがよう似とりましてな。『瑠威と瑠佳には母親が必要や』言うて、儂が無理矢理、二人を引っ付けたんですゎ。」

「じいちゃん…」

「まぁ、余計な御世話ゆうやっちゃな。年寄りが横から口出したばかりに、この様や。ホンマ、面目次第も御座いません。」

 苦笑を湛えた顔で、そう言うと…宗吉翁は、細長い包みを携えて瑠威の前に進み出た。

「…ぼん。アンタにな、渡すモンがあんねん。」

「オレに?」

 瑠威は、泣き腫らした目を上げて祖父を見た。その手に、宗吉翁が、そっと包み握らせる。

「これ…」

訝る瑠威に、老人は『開けてみ?』と優しく微笑む。包みの中から現れたのは、一振りの刀剣だった。

驚愕のあまり絶句する少年に、宗吉翁は言う。

「これはな、瑠威。初代《風の星》当主・神部彌冲(カンベヒサオキ)が振るったという『降魔(ゴウマ)の剣』…《霧風》や。」

「きりかぜ?」

「宝剣・緑風は、元々、《霧風》を真似て造られた模倣刀みたいなもんや。格で言うたら、霧風の足元にも及ばん。こちらの方が緑風より長いし重たいが…今のアンタなら、使い熟(コナ)せるやろ。」

「これを…オレに?」

「あぁ、もうアンタのもんや。霧風が、ぼんを《風の当主》と認めた。緑風が壊れたんが、何よりの証。…霧風の『真の持ち主』が、現れたからや。」

 …瑠威は。

震える手で、《霧風》の柄を取った。
スラリと抜き放った刀身は、反りの無い真っ直ぐな刃を煌めかせている。

「…これがオレの刀?本当に??」