緊張から解放されて、ボクは大きな溜息を吐く。激闘の末──辛くも、瑠威に勝利した。

《緑風》の折れた刃先が、窓から射し込む月光を浴びて、仄皓(ホノシロ)く輝いている。

半ば呆然とそれを見詰めていると、《風の星》の北天・土師東吾が、静かにボクに近付いて頭を下げた。

「…見事な居合い抜きでした、首座さま。瑠威の太刀をも上回る、高速の剣。あれでは、風の秘剣も敵いません。」

「いや…ギリギリだったよ。正直、負けるかと…」

 思わず漏れた本音に、東吾が微笑む。
そこへ祐介がやって来て、ボクの肩を叩いた。

「良くやったね、薙。…辛かったろう?」

 何もかも見透かした様な祐介の言葉に、堪えていた涙が滲む。

成り行きとは言え、ボクは、風の宝剣を壊してしまったのだ。

瑠威が唯一心の支えにしてきたものを、奪ってしまった…。

その事が、悔やまれてならない。

 茫然と座り込む、瑠威。

その瞳は、人形の様に空虚だった。
妹の瑠佳が取り縋がり、頻(シキ)りに兄の肩を揺さぶる。

だが、瑠威はまるで無反応だ。

 ──様子が、おかしい。

当主の身を案じた《風の星》の四天が、静かに彼を取り囲む。しかし、遠巻きに見つめるばかりで、誰一人声を掛けようとしなかった。

 埋まりそうで埋まらない、微妙な距離。

これが、彼等──《風の星》の現状だ。
当主と四天が、和合出来ていない。
六星として、本来有るべき『形』ではないのだ。

「ボクは、間違っていたのかも知れない…」

 後悔の言葉が口を突いて出る。
──その時だった。