ギリギリと喉が絞め上げられる。
ボクは堪らず、彼の腕を掴んだ。

「…る、い……っ!」

苦しい。なんて力だ。
このか細い腕の何処から、こんな力が出ているのか?

絞め上げられて途切れた呼吸が、激しい目眩と耳鳴りに変わる。

 それでもボクは、懸命に彼に語り掛けた。

「…君…が、《秘剣》を遣ったから…同じ事を、して…見せただけだ。」

「秘剣?今のが!?」

「あ…れは、金の星の秘剣──鳳凰転法輪。…秘伝の…奥義を持つのは…君だけ、じゃない。六星の当主を…見縊(ミクビ)るな!」

 苦しい息の下から辛うじてそう云うと、興味が失せた様に瑠威の手が離れた。いきなり体が自由になって、ボクはその場に崩れ落ちる。

 気紛れな、この力…

吹き抜けては自在に形を変える、自由な『風』そのものだ。

だけど必ず捕まえて見せる。
清らかで奔放な、この疾風(カゼ)を──。

 瑠威の潤んだ視線を受け止めながら、ボクは真摯に語り掛けた。

「今…ボクが斬ったのは、君の心だ。その魄魂に巣食う『憎悪の念』だよ。」

「憎悪…」

「転法輪(テンボウリン)とは、そういう剣だ。君の魂は、憎しみという柵(シガラミ)に促(トラワ)われ、潰(ツブ)れ掛けている。ボクは、その魂を解放する為に、立ち合いを申し出たんだ。」

「…騙したのか?」

「違う、騙したんじゃない。瑠威が唯一信じている方法で、正面から向き合いたかったんだ。ボクの秘剣の効果で、悪因縁は消えた。涙が出るのは、解き放たれた歓びを、無意識の内に感じているからだよ。」

「…憎しみを斬った?オレの??」

 瑠威は、愕然と反復した。