道場に、束の間の沈黙が訪れる。
裂けたシャツの胸元を、凍り付いた様に凝視する瑠威。

永遠にも思える空白の時間が流れる…。

 風の当主は、すっかり戦意喪失したかに見えた。ボクは、静かに刀を鞘に納める。鍔元に、チン!と微かな金属音が響いた途端、瑠威がカクンと両膝を着いた。

 ポタリ…ポタリ…

道場の床に、透明な雫が滴り落ちる。
一粒…また一粒と、乾いた床に水滴が染み込んでいく。

 気丈な瑠威が、泣いていた…。
涙の粒が床に落ちて、水玉模様を描いてゆく。

「アンタ…今、何をした…?」

澄んだ瞳からポロポロと大粒の涙を流しながら、瑠威はボクを見上げた。

「言えよっ!何をした!?」

「別に何もしていない。鋒で、お前の胸を撫でただけだ。」

「嘘だ!それだけじゃないだろう!?」

 滂陀(ボウダ)と伝い落ちる涙を拭おうともせず、瑠威は激しい剣幕で詰め寄った。

「どうして、こんなに涙が出るんだ!?泣きたくもないのに、涙が止まらない!」

──そう叫ぶと。

瑠威はボクの腕を掴んで、乱暴に引き寄せた。

「あ…!」

バランスを崩して倒れたボクの胸ぐらを、瑠威の細い手が乱暴に吊り上げる。

「オレに何をした?今の剣は何だ!?」