『怖くて当然だ。その怖れを忘れるな。刀は、人を斬る道具だが──同時に、邪を斬る仏器にも成り得る。凶器と為すか、仏器と為すかは、斬る者の心に依って変わるものだよ。』

 だけどやっぱり真剣は重くて…ともすれば、取り落としそうになる。親父は、ボクの手に大きなその手を重ねて云った。

『それはお前が、剣を道具にしてしまっているからだ。剣は、己の体の一部だと思いなさい。赤ん坊の手を取る様に、優しく握るんだ。…どうだ、薙?お前は、その手で誰かを殺そうと思うかい??』

 その問いに、ボクは首を横に振って答える。

…人は殺せない。殺してはいけない。
その時、はっきり気が付いたのだ。
命を奪う者の、罪の重さを──。

 親父は、怯えるボクの目を覗き込むと、快活に笑ってこう言った。

『恐れを知る者は、誰よりも強くなれる。お前は、人を生かす為に剣を振るいなさい。馬鹿と鋏(ハサミ)は使い様さ──刀もな。』

 ──あの日。ボクの心は、定まった。

刀を、殺しの道具にはしない。
この一太刀は、悪しき心を払う為。
…人の心を救う為に振るうのだ、と。