力もスピードも互角だが、実戦経験は、彼の方が僅《わず》かに上だ。

試合が長引けば長引く程、この差が大きく影響して来る。多く場数を踏んでいる方が俄然、有利だ。

 瑠威も勿論、それを計算に入れている。
体力勝負に持ち込まれる前に、一気に留目を差しに来るだろう…。

 気力だけでは、どうにもならない経験値の差が、そのままボク等の勝敗を分ける。

負けたくない。
だけど、このままでは…。

──ザシュ!

「ぅ!」

 弱腰になった途端。
緑風の鋒が、左肩目掛けて振り下ろされた。

咄嗟に庇った利き手──。
白いTシャツの右袖だけが、真一文字に斬れる。

 …凄い。
狙った場所を、寸分違わず突いて来る。

「足元がフラついているよ、薙??」

 瑠威は、余裕の笑みでにじり寄った。

「このままじゃ、オレに負けちゃうねぇ。それとも、今の内に降参する?」

「………。」

「新しい首座は、口程でも無いな。流石の神子も、剣術は凡人か。チョロ過ぎて萎えるよ。」

「…言いたい事はそれだけか、瑠威?」
「は??」

「生憎…今は、お前の無駄口に付き合う気分じゃないんだ。お喋りはそこまでにして貰おうか。次は…本気で行く。」

 ボクは、刀の柄(ツカ)を左手で確りと握り直した。右足を後方に半歩引き…鋒(キッサキ)を下げて、腰に右手を置く。

──その様子を、瑠威は怪訝に見守っていた。