スピードでは到底、瑠威に敵わない。
ならば…こうだ。

ボクは、剣を構える瑠威に真っ直ぐ向き直った。

 タン──!

 半歩前で軽く足を踏み鳴らすと、直ぐに戻って左に移動する。これで、瑠威の攻撃リズムが崩れた。

「何っ!?」

 間合いを外され、彼の左脇がガラ空きになる。瞬発力に優れた風の当主も、このフェイントには、僅(ワズ)かに反応が遅れた。

一瞬の隙が生まれた處(トコ)ろへ、ボクは素早く峰打ちを喰らわせる。

「ぅ──っ!」

 利き腕を強(シタタ)か打ち付けられて、瑠威は大きく膝を着いた。無防備なその背に、ボクは透かさず二の太刀を浴びせる。

 ──ギィン!

振り下ろす刃を、瑠威は鐔元(ツバモト)で受けた。
激しく触れ合う金属の摩擦で、両者の抜き身が火花を散らす。

キン!ギィン、ガシッ!

 互いの意志を主張し合う様に、激しさを増す剣檄(ケンゲキ)の音。小窓から降り注ぐ月光を集めて、凰華と緑風が激しく斬り結ぶ。

「死闘だな。」

 冴えた心耳に、一慶の呟きが聞こえた。

死闘──?

いや…もしかしたらボクは、瑠威に負けるかも知れない。