──六星剣術とは、《四天武術》五態(ゴタイ)の一つだ。一座独自に発展した剣技を、永い年月掛けて集成したものである。

技の基本は攻撃的だが、決して人を傷付ける為のものでは無い。

魔性に囚われた魂魄を、悪因縁から斬り離すは、相手の体の僅か数cm手前を掠(カス)めるだけで良いのだ。

 ──つまり。
肉を斬らずに、魂魄を斬るのである。

宝剣が無垢でいられるのは、肉体を傷付けない程度の、絶妙な間合いを取っているからだ。

 しかしながら、この『間合い』が、恐ろしく難しい。

一歩間違えば、相手の命を奪う事になる。
故に。六星剣術では、技の正確さが、最も重要視されていた。

 また、六星一座には各家に独自の奥義がある。その多くは口伝(クデン)で相承(ソウショウ)する、秘技とされていた。

 中でも──当主が一子相伝(イッシソウデン)で受け継ぐ事が出来る究極奥義が、秘剣である。

 《風の星》の秘剣・燕空剣(エンクウケン)は、速さと正確さで機先を制し、敵を圧倒する技だ。その斬れ味は、想像以上である。

身の軽さには自信があったが…流石のボクも、今の一撃は際どかった。

あと1cm、鋒が内側にズレていたら、ボクの耳は削ぎ落とされていただろう。それを思うと、冷や汗が背を伝う。

 瑠威は、全く容赦が無かった。
ボクが態勢を整える前に、二刃三刃(ニジンサンジン)と斬り込んで来る。

右、左、右…。
鋭い鋒が、正確にボクの喉を狙う。

 速い。なんて速さだ。
その名の如く、空を飛び交う燕の様に、自由に宙を舞う宝剣・緑風(リョクフウ)。

次々に繰り出される太刀を、ボクは間一髪で躱(カ)わしていた。

「いつまで避(ヨ)けているつもり?」

 不意に刀を止めて、瑠威が訊(キ)く。
嘲笑(アザワラ)う様にボクを見ている。

「逃げ廻ってばかりじゃ、オレには勝てないよ──薙?」

 仰有《オオ》せの通りだ。
だが、瑠威の剣には全く隙が無い。
これを、何処から切り崩すか──?