瑠威の身に起きた事は、心から気の毒に思う──だが。

ボクは、彼に手加減はしない。
簡単に勝てる相手じゃない事は、とうに知っている。

 本気じゃなかったとは云え──。
ボクの太刀を、あっさりと白刃取りにした瑠威の姿を思い出す。

 あの反射神経…そして、技の正確さ。

大口を叩くだけあって、かなりの腕前である事は間違いなかった。

「瑠威。」

 既に気色ばんでいる瑠威を静かに見据えて、ボクは言った。

「この試合のルールは、唯一つだ。『無垢の宝剣を穢さない事』──つまり、無血で相手を討つ『峰討ち』を原則とする。他に決め事は無い。何を使うのも自由だ。実戦同様に立ち会えば良い。勝敗は、剣術師範である東吾と祐介に判定して貰う…異存は無いか?」

「何でも良いよ。さっさと始めて。」
「そう…それじゃあ、始めよう。」

 そしてボク等は、道場中央で対峙した。
柄に手を掛け、ゆっくりと鯉口を切る。

 チャキ…

微かな金属音が、俄かにボク等の緊迫感を高めていった。

東吾の『始め!』の合図と共に、二振りの宝剣が抜き放たれる。

 摺り足で移動しながら、ボク等は互いにジリジリと間合いを詰めて行った。

 漲(ミナハシ)る剣気──

最初に仕掛けて来たのは、瑠威だった。
深く腰を落とし、鋒をスイと水平に払うや、下段から大きく掬い上げる様に、刀を薙ぎ払う。

 ブン!

耳元に、鋭い風切音がした。
これは…《燕空剣》だ。
風を巻き起こすと云う《六星剣術》の秘技。

 昔、親父から少しだけ指南を受けた事があるけれど…『本物』は、思っていた以上に速い。