「一体どうしてこんな事になっちまったんだよ、東吾!?」

 風の西天・南雲順之助が、責め立てる様に叫んでいる。

無理もない。
当主同志が、宝剣を用いて試合をするなど、前代未聞の出来事だ。

北天・土師東吾(ハセトウゴ)は、動揺する仲間達を目で軽く制するだけで、多くを語ろうとしない。

誰も邪魔する事の出来ない、文字通りの真剣勝負だ。

 月明かり射す神崎家の道場で──ボクと瑠威は、静かに対峙した。

どうしてこんな事になったのか…。
説明した處ろで、順之助には理解出来ないだろう。

 今の瑠威には、どんな言葉も通用しない。

ボクの想いを解って貰うには、こうして一対一の勝負に出るしか無いのだ。

 瑠威は今、暗い迷宮の中にいる。
唯一信じられるものは、宝剣・緑風だけだ。

この世界でたった一つ、自分の『価値』を証明してくれる刀──だがそれは或る意味、ボクも同じだった。

 当主、首座、神子。

ボクがこの世に生まれた意味を示す言葉は、山程もある──だが。ボクはずっと、それ等に確信が持てずにいた。自信が無い、信じられない…。

唯それだけの理由で、周りの人間を──取り巻く環境の全てを否定的に捉え、遠避けようとした。

 やはり、瑠威とボクは似ている。
彼は、自分自身を『価値の無い人間』だと思い込んでいる。

虚弱な身体と、封じられた能力…そして。
性別すら確定しない『半陰陽』の遺伝子を、心から疎()み、嫌っている。

 瑠威は、自分自身を愛せないのだ。

哀しい妄想に捉われた不安定な自我は、やがて彼を雁字搦(ガンジガラ)めに縛り付けてしまうだろう──かつての、ボクの様に。

 恐らく。瑠威が、最も不信感を抱いているのは、彼自身だ。

生まれて間もなく研究の対象にされ、特異な病に悩み…最終的には、性的虐待という重大な人権蹂躙を受けた少年。

 瑠威にとって、自分の出生に纏わる物事全てが、忌むべき『敵』なのだ。