「何だよ、それ…」

 瑠威は悔しそうに吐き棄てる。

巳美の術に依って母を亡くした彼の気持ちは、ボクにも充分理解出来た。親の仇を受け入れろと言われて、素直に『はい』と答えられる筈がない。だが…

「瑠威。これでは、いつまで経っても堂々巡りだ。話すつもりがないと言うなら、それでも構わない。その代わり、ボクと一つ賭けをしないか?」

「賭け?」

「うん。君が一番信用しているものを使って、賭けをするんだ。」

 『一番信用しているもの』と言われて、瑠威は何か思い当たった様に、大きく目を見開いた。

それから、ゆっくりと視線を落とす。

 彼の眼差しの先には、二振りの刀が並んで置かれていた。

「…まさか?」

「そう、この刀を使う。当主の証である、無垢の宝剣…これで手合わせをするんだ。敗者が、勝者の主張を無条件で飲む。」

「アンタ──自分が何を言っているか、解っている?もし万が一アンタが負けたら、《金の星》は、一座の元締めという立場を、追われる事になるんだよ?」

「負ければ、ね。」
「……。」

「この試合、ボクは首座ではなく《金の星》の当主として、《風の星》の当主に闘いを挑む。勿論、金目も封印する。これなら、首座への反逆にも当たらない。君も、本気で向かって来れば良い。瑠佳に預けた力を、全部使ってくれて構わないよ。悪い話じゃないだろう?」

「いいの、そんな約束しちゃって?言って措くけど、オレ…剣術には自信あるよ。相手が誰でも負ける気がしない。」

「こちらもだ。」
「後悔しても知らないよ?」
「言い出したのはボクだ。二言は無い。」

 瑠威は宝剣を見詰めながら、暫くの間考え込んでいた。そして──

「解った。果たし合い、受けて立つ。その代わり、オレが勝ったら、今後は好きにさせて貰うよ?勿論、六星一座も俺が貰う。」

 それは、《風の星》が、《金の星》に取って代わるという可能性を示唆していた。

 決意を秘めた瞳で、《緑風》の柄を取る瑠威。

ボクもまた、宝剣・鳳華を手にして立ち上がった。