気まずい思いで押し黙ると、助手席に座っていた東吾が然り気無く会話に割って入った。

「ユウの兄貴は三つ違いでね。今はニューヨークに滞在しています。」

「ニューヨーク!?」
「えぇ。心臓外科医として活躍しています。」
「行者ではないんだ?」

 思わず尋ねた言葉に、祐介は苦笑を湛えて答えた。

「あぁ…どうやら兄は、そういう才に恵まれなかったみたいでね。自他共に認めるリアリストなんだ。…昔から、行者という稼業には否定的だった。」

「そうか…そういう人だっているよね。」

 何気無く呟いた言葉に、祐介が敏感に反応する。

「理解があるんだね、新首座さまは?」

「そんなんじゃないよ。永い歴史の中には、そういう人も沢山いただろうなと思っただけで…。」

 正直な気持ちで答えると、東吾と祐介がそっと目を合わせた。

それきり、車内は微妙な沈黙に包まれた。

 ボク等は二台の車に分乗して、瑠威の元へと向かっている。

祐介の愛車──フレームレッドの、ルノー『グランセニック』は、秋の宵に沈む街の辻々を、軽やかに曲がりながら進んでいた。その後ろを、一慶の漆黒のトレイルブレイザーが追従している。

 目指す神崎家の邸宅は、県境を遥かに越えた、鄙びた城下町の外れにあった。

──そう云えば。蒼摩の別荘も、紫の家も郊外の閑静な場所にある。甲本家もやはり、郊外の高台に屋敷を構えていた。

人里から離れた場所に住まうのは、行場である山に程近い場所に、自らの居を構えるという、行者古来の倣わしを引き継いだものらしい。

 景色が急に閑散として来た。

それから間も無く、神崎家の壮麗な建物が見えてくる。