…『言葉が足りない』…
確かに、そうかも知れない。
親父は決して口下手では無かったが、かと言って饒舌な方でも無かった。

単に恥ずかしがり屋なんだろうと思う。
だけど──

これは無いよ、親父。
世の中には、言ってくれなきゃ解らない事だってある。

何も知らない方が幸せだなんて…
どうして、そう一方的に決め付けてしまうんだ?

何も知らないまま…
ボクは今、人生の岐路に立たされている。
それがどんなに酷な事か…
きっと、親父は解っていない。

「つまり。ボクは…首座になるか、結婚するかを選ぶ為に、此処に呼ばれたんだね?」

思わず口をついて出た言葉に、ショックを受けていた。

 …これは酷い。あんまりだ!
いきなり、こんな──


「まあ、そうだね」

そう答えたのは祐介だった。

「結婚か継承か──キミが自らの意志で択べる選択肢は、この二つしかない。…で。本当のところ、どうなの?」

「どうって?」
「本当に、跡を継ぐ気は無い?」
「…………。」

「跡継ぎになって、伸之さんに喜んで貰いたかったんだろう?その為に、沢山努力もしてきた。なのに、途中で放棄しちゃうの?」

「それは──」

 言い淀むボクに、祐介は目を細めて微笑み掛けた。

「父の跡を継ぐ娘──悪くないシチュエーションだ。美談だと僕は思うよ?」

 跡を継ぐ──それが、ボクの望み?

そうなのだろうか?
本当に、そんな事を考えていた?
事実を知って尚、同じ気持ちになれるのか?
解らない。

解りたくない…