瑠威…可哀想に。
どんなに辛かっただろう。
彼が大人に対して不信感を抱くのも、医師という職種に向ける嫌悪感も、全ては、これが原因だったのだ。
東吾は、抑揚の無い声で、淡々と事実を語る。
「この研究員は少年性愛の遍歴があり、以前から問題にされていた様です。」
だが、政治家の息子だという事で、その行為は全て揉み消されていた。更に男は、『要求に応じないと、瑠佳にも同様の行為をする』と脅して、益々、瑠威を追い詰めていったのだ。
妹を守る為に、瑠威は幼いその身で必死に凌辱に耐えたのである。
聞けば聞くほど腹が立った。
こんな悪辣な人間が、何の咎めも無く巷に野放しにされているなんて…!
「…申し訳ありません、首座さま。こんな内輪話に付き合わせてしまって。顔色が優れませんが、大丈夫ですか?」
「平気だ。瑠威の事は…ちゃんと全部受け止めるから──続けて。」
東吾は、小さく頷いて話を再開した。
「そんな事が何度か続いた、ある日。ついに瑠威は、我慢の限界を越えてしまいました。この研究員に対して、封印していた風の力を開放してしまったのです。」
「力って…?」