「この件に関しては、伸之さんにも秘密にしていたようです。先代首座に、個人的な事情で迷惑を掛けたくなかったんでしょう。変に義理堅いところがありますからね…あれで。」

「右京さん…水臭いよ。親父に相談してくれれば、きっと何とかしてくれた筈なのに…」

「えぇ、本人も後悔していました。まさか、あんな事件が起きるなんて想像もしていなかった、と。」

「あんな事件?」

 言葉尻を捉えたボクに、東吾は慎重に言葉を選びながら語る。

「瑠威と瑠佳は赤ん坊の頃から、その成育データを彼等に提供し続けました。そうして十歳を過ぎた頃でしょうか?瑠威の体が、急激に変化し始めたのです。」

「…クラインフェルター症候群…」

「えぇ。元々病弱だった瑠威は、瑠佳に比べて成長の遅れが目立つようになりました。そんなある日、事件が起きたのです。ある研究員から連絡を受けて、瑠威は研究室に向かいました。その男は、『病気について調べたい事がある』と言って、瑠威だけを呼び出したのです。そこで、あの子は性的虐待を受けた。」

「え──」

 衝撃的な事実の前に、ボクは、言葉を失ってしまった。

「その時の行為を、動画や写真に撮られ、それをネタに、瑠威は何度となく奴に関係を強要された様です。」

「…ひどい…っ!」

思わず口元を覆う。
他に言葉が出て来ない。
怒りに震える肩を、遥が然り気無く抱き寄せる。

 ──だが。ボクの気持ちは収まらなかった。