「異性の一卵性双生児って…そんなに珍しいの?」

 門外漢のボクには、それが如何に稀少な例であるかも解らない。素人丸出しを承知で訊ねると、祐介は僅かに渋面を解いて言った。

「かなり珍しいね。奇跡に近い存在だ。」

「奇跡…そんなに?」

「一卵性双生児は、同性で生まれるのが普通だからね。ひとつの受精卵から、異性の双子が誕生する確率は、限り無く0に近い。」

「そうなの!?」

 思わず声が裏返る。
そんなに珍しい現象だとは知らなかった。
傍らの遥も、複雑な表情で呟く。

「つまり、瑠威と瑠佳は『奇跡の双子』なんだね。さっき、あの子が言っていた『出生の秘密』とやらは、これの事を差していたのか…。」

 片や。一慶は、慣れた手付きで祐介に包帯を巻きながら、静かにこの遣り取りを聞いていた。剥き出しになった男らしい腕に、くるくると包帯を巻き付けていく指の動きは、何やら妙に艶かしい。

 やはり、あの細くて長い指の所為だろうか?

ピアニストである事を証明しているかの様な、美しく繊細な指先──。倒錯シュミに走るなと云う方が、無理だ。

 目の遣り場に困ったボクは、取り繕う様に話の続きを促した。

「そ、そんな奇跡的な例なら、当時はかなり話題になったんだろうね?」

 その言葉に、東吾が深刻な顔で頷いた。

「えぇ。研究者の間では、かなり騒がれた様です。」

「それは僕も覚えているよ。」

 すっかり処置が終わった祐介は、着物に袖を通しながら言った。その肩に、一慶が然り気無く羽織を着せ掛ける。

 礼を云う様に軽く手を挙げると、祐介は話を続けた。

「だけどまさか、渦中の人物が身内にいるとは思わなかったな。プライバシーの保護が、厳重だったんだろう。一座でも全く話題にならなかった。」

「伸之さんが、首座の権限で箝口令を敷いたらしい。真実を知るのは、ごく限られた人間だけだ。《風の星》の俺達さえ、長いこと詳細を知らされていなかった。先代は、一人で重荷を背負うつもりだったのだと思う。」

 右京さんらしい気遣いだ…。

きっと、一人で沢山のものを守り続けてきたのだろう。

もっと楽な生き方も出来た筈なのに。