ボク等のこんな遣り取りを、東吾は爆笑しながら眺めていた。

「良いなぁ、お前ら。仲が好くて。」

朗らかに笑う風の北天に、祐介が肩を竦めて答える。

「お陰様で、うちは円満だよ。君のところと違って、当主が天然だからね。弄り易いし、からかい甲斐がある。」

 『弄り易い』って…
酷い言われようじゃないか。

拗ねるボクを一蔑すると、祐介は徐ろに片袖を脱いだ。途端に、彼の姿に目を奪われてしまう。

綺麗な象牙色の肌──
程良く筋肉の付いた肩や二の腕。

厚い胸も、なだらかな首筋も…全てのパーツが絶妙なバランスで組み合わされた肉体は、まるで彫刻の様だった。

(男の人なんだなぁ)

素直に『美しい』と感じる。

男女の性の明確な違い──中性的な自分に、強いコンプレックスを抱いている瑠威の気持ちを思うと…胸が苦しくなる。

 ──クラインフェルター症候群。

その何たるかを知ろうと、タブレット端末で検索すれば、直ぐに幾つかのヒットがあった。

 祐介が言った様に──これは、性遺伝子の異常が持たらす先天性の病だ。

男性的な第二次性徴が欠如がすると言われるが、症状の出方には個人差があり、中には全く症状の表れない人も在る。

筋肉が付かない。
声変わりしない。
体毛が薄い──又は、無毛。
虚弱体質。不妊。
ホルモン不足に起因する更年期障害や、骨粗鬆症。

 体格は概ね華奢だが、逆に肥満に傾く例も多く、成人後も少年の様な若さを保つ事がある。

また、思春期頃から胴体の成長が止まり、代わりに手足が長く延びる。

場合に依っては、女性の様に、乳房が膨らむ事もある。

そう、今の瑠威の様に──。

 タブレット端末に表示される、クラインフェルター症候群の概要は、何れも驚くべき事ばかりだった。

男性ホルモンの分泌が、極めて少ない事から起きると言われる諸症状…。

それに傷付く思春期の少年の繊細な心を、ボクは、どう受け止めてあげたら良いのだろうか?