急いで救急箱を持って戻ると、祐介の厳しい報復が待っていた。

「…僕は傷付いたよ、薙。」

 芝居掛った仕草で、彼は額を押さえる。

「キミの目には、僕とカズがそういう関係に見えるんだね?」

「いや、あの、えっと…」

「命懸けでキミを護ったのに──まさか、同性愛者に間違われるなんて。有り得ない、誠に遺憾だ。」

「…あぅ…」

 勿論からかわれているのだろう。
だが解っていても、巧く言葉が返せない。

何しろ、この二人は綺麗だから──。

仮に『そういう関係』だったとしても、それさえ絵になってしまう。二人が居並ぶだけで、倒錯的な美しさがあるのだ。

 無論。そんな事は、口が裂けても言えない。
此処は黙って、嵐が通り抜けるのを待つしかなかろう。

貝になったボクを恨めしそうに見遣ると…祐介は、大袈裟に溜め息を吐いて言った。

「何か誤解がある様だから云うけど…カズはともかく、僕はノンケだからね。良く肝に銘じておくように。」

「ちょっと待て、祐介。『俺はともかく』とは、どういう意味だ?俺だって正真正銘のストレートだよ。これ以上、状況をややこしくするな!」

 隣で一慶が地味に反論しているが、祐介は見事にそれを無視して、ボクに顔を近付けた。

「ごめんなさいは、薙?」
「うぅ…ごめんなさい。」

「後で、お仕置きだからね。」
「えぇ~!? 謝ったのに?!」

 ボクが叫ぶのと、遥がボクを抱き寄せるのは、ほぼ同時だった。

「ちょっと祐ちゃん!? 薙を虐めんといて!! 可哀想に、真に受けてるやん!」

噛み付く遥に、一慶が醒めた視線を投げる。

「また始まったよ、遥の溺愛…」
「悪い!?」

「別に。蓼喰う虫も好き好きって言うしな。だが気を付けろよ。そいつはマングース並に狂暴だ。油断していると、寝首を掻かれるぞ?」

「狂暴!? マングース?? 一慶、酷い!」

 聞き捨てならない言葉の数々。
こうまで言われて黙っていられるか!

「あんまりじゃない、一慶!? 本人を前にして、良くもそんな事が言えたね?!」

「俺は事実を言ったまでだ。」
「何それ、喧嘩売ってんの?買うよ!?」
「誰が売るか、儲けの無い喧嘩なんか。」

 ああ言えばこう言うし。
一慶は本当に人が悪い──!