──と、不意に一慶が祐介の背を叩いて言った。

「そうだ。腹拵えの前に、する事があったな。…祐介、脱げ。」

「何だい、急に…?」
「惚けるな。お前もそろそろ限界だろう??」

「カズ──何も、こんな人前で…。勘弁してくれ。そういう事は、せめて二人きりの時に…」

 え…え──!?
意味深なこの会話に、ボクは慌てた。

「だ、駄目だよ、二人共──!! 他人の性嗜好をとやかく言うつもりは無いけど!場所柄を弁(ワキマ)えてよ、場所柄を!」

「薙…」

 一慶は鼻白んだ様に半眼眇めて、ボクを見た。

「何やら、派手に勘違いしている様だが…俺達は、そういう関係じゃないからな。」

「…違うの?」
「違うに決まっている!腐女子か、お前は?」
「だって…急に『脱げ』なんて言うから…」

 ボクの答えに、一慶は眉間を押さえて、重苦しい溜め息を吐いた。

「怪我の手当てをするんだよ。巳美と遣り合った時に、負傷したんだろう?」

「気付いていたの?!」

「当前だ。巧く隠したつもりだろうが、肩の動きを見れば判る。…ずっと気になっていた。」

「そ、そうか。そうだよね、ごめん。」

 真面目に心配していた一慶に対して、ボクはとんでもない勘違いをしてしまった様である。…恥ずかしい。穴があったら入りたい。

「ぼーっとするな。さっさと救急箱を持って来い!」

「は、はいっ!只今お持ちします!!」

 一慶に命じられて──ボクは座を立ち、いそいそと救急箱を取りに向かった。

「全く、あいつは!何を考えてんだ??」

 背後で、ボソリと毒付く一慶の呟きと、東吾の笑い声とが聞こえていた。