控え目な態度で名乗った後──。
東吾は、深々と頭を下げて詫びた。

「誠に申し訳ございませんが…この通り、当主は心身喪失の状態です。今日の處ろは、これで下がらせて頂いて宜しいでしょうか?」

「…あぁ、うん。そう、だね…。」

 何と答えて良いか解らず、曖昧な返事を返してしまう。

そうするべきだと解ってはいたが…。
今こんな形で彼と別れてしまったら、二度とこの話題に触れられなくなる。…それどころか、話し合う機会すら、永久に逃してしまう様な気がした。

 そんなボクの心情を察したのか、東吾は僅かに口元に笑みを履いて言う。

「詳細は、私からご説明申し上げます。」

「え…東吾が?いや、でも…」

「構いません。本人の為にも──首座さまには、彼の身に起きた事を全て知って措いて頂きたいのです。カズ、ユウ…お前達も付き合ってくれるだろう?勿論、遥も。」

 そう言って、東吾は一慶を見やった。
それから顔を巡らせて、祐介と遥にも視線を送る。

「今夜、付き合って貰えるか?」
「仕方無いな。他ならぬ東吾の頼みだ。」
「え、何…??どういう事?」

 親しげな東吾と一慶の会話に、思わず割って入ると、二人は意味深な笑みを返した。

 独り困惑するボクに、遥が然り気無く寄って来て耳打ちする。

「昔、やんちゃしていた頃の仲間なんだよ…この人達は。」

 やんちゃ…?
悪さをしていた仲間という事だろうか??
一慶や祐介はともかく、真面目そうな東吾までが、やんちゃ仲間の一味だったなんて、俄かには信じられない。

 一体どんな悪さをしていたのか?
気にはなるけれど…何やら、それ以上追及してはいけない気がした。

 ──その後。
東吾の指示で、瑠威と瑠佳は四天に伴われて、帰途に着いた。

残されたボクらは、東の対屋に場所を変える為、広い敷地を移動する。

 やんちゃ仲間が三人か…。
今夜は、長くなりそうな気がする。